名門歌劇場が総勢約180名で引越し公演!
年末年始に、戦禍のウクライナから、150年以上の歴史を誇る名門ウクライナ国立歌劇場が来日した。今回は、12月17日のバレエ公演を皮切りに、「ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)」「ウクライナ国立歌劇場管弦楽団」「ウクライナ国立歌劇場(旧キエフ・オペラ)」が、1月15日までの1ヶ月間に全国13都市で26公演という、劇場挙げての引越し公演。来日したのは、バレエ団52名、指揮者とオーケストラ54名、オペラ、合唱66名ほか総勢約180名。バレエは、ミンクス作曲『ドン・キホーテ』と新春オペラ・バレエ・ガラ公演での『パキータ』、オペラはビゼー作曲『カルメン』、コンサートはベートーヴェンの『第九』と、チャイコフスキー色のない異例の日本公演となった。これは、ウクライナ文化省からの要請によるもので、今後については未定とのこと。
バレエ団芸術監督に寺田宜弘就任。 記者会見で抱負を語る
開幕に先立って、12月16日、神奈川県民ホールで記者会見が行われた。登壇したのは、音楽監督・指揮者のミコラ・ジャジューラ、バレエ団芸術監督の寺田宜弘、プリンシパルダンサーのオリガ・ゴリッツァとニキータ・スハルコフの4氏。昨年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻後、国立歌劇場は閉鎖され、5月に再開。10月に戦況が激化しても、劇場で練習は行われた。こうした中、7月には、バレエ団の主要メンバーによるガラ公演が日本で開催され、今回大規模な公演が成功裏に終わったことは特筆に値する。
寺田が芸術監督に就任したのは、12月6日のこと。それまでは、ヨーロッパで、ウクライナのバレエ学校の生徒たちの受け入れ先を探すことに尽力していたという。
「初めてウクライナに夜行列車で到着したのが1987年。91年にはソ連からの独立など、いつも人生を通して、ウクライナの時代の転換点にいた。私の課題は、国際交流を通して、バレエ団に新しい時代をもたらすこと」と抱負を語った。今シーズンは、ノイマイヤーやファン・マーネンの作品(無償)も上演していく予定だ。
劇場には、95名が残り、週2回公演を継続。空襲警報が鳴ると、地下のシェルターに避難しながら、公演活動が続けられている。
プリンシパルのゴリッツァは、「ドイツに避難したが、愛する祖国へ戻った。キトリを演じて、ウクライナ人の強さを伝えたい」、スハルコフは、イタリアやアメリカにツアーに出かけたのち帰国。「どんな状況にあっても仕事を続けることが大切。夏に日本で温かい歓迎を受けたのが嬉しかった」とそれぞれ思いを打ち明ける。
来日50周年を迎えたウクライナ国立バレエ (旧キエフ・バレエ)の『ドン・キホーテ』
バレエ団は、1972年に初来日して以来、ちょうど来日50周年。その記念すべき舞台、『ドン・キホーテ』の東京公演4回目を12月27日、東京文化会館で鑑賞した。
キトリは、2022年に入団したばかりの若手イローナ・クラフチェンコ。エキゾティックな容貌で、きびきびと技を決めていくのが陽気な街娘の役にぴったりだ。相手役バジルは、おなじみのベテラン、ヤン・ヴァーニャ。大柄で、スケール大きい踊りが持ち味。サポートも安定し、片手リフトを決めた瞬間は、会場がどよめいた。様々な制約の中で、精鋭たちが伸び伸びと踊っている様は、観る側にとっても大きな希望である。
第1幕の広場では、ゴリッツァが街の踊り子に扮し、エスパーダのオメリチェンコと絶妙な掛け合いを見せたのが何とも贅沢。第2幕は、森の場面がパステルカラーに包まれ、キエフ・バレエ伝来の様式美を前面に。森の女王にアレクサンドラ・パンチェンコ、キューピッドにカリーナ・テルヴァルが扮するなど第一級のソリスト陣が脇を固めたのも華やかで見応えがあった。
ヴィクトル・リトヴィノフの演出は、クラシック・ダンスとキャラクター・ダンスのバランスがよい。タイトルロールのドン・キホーテ(ミコラ・ミヘーエフ)やサンチョ・パンサ(ニキータ・カイゴロドフ)、ガマーシュ (オレクシィ・ネステロフ)の狂言回し的な役作りもドラマを盛り上げ、ジプシーの踊りやスペインの踊りなど民族舞踊の数々も大迫力で楽しませる。ジャジューラ指揮のオーケストラのリードと共に、苦境を跳ね返すような熱演に、舞台芸術の活力を実感させられた一夜だった。
おすすめの本
●『愛蔵版 SWAN ―白鳥―』第1~第12巻
有吉京子著(平凡社)
各巻定価=1320円(10%税込)
累計2000万部を超えるバレエ漫画の金字塔、有吉京子の『SWAN―白鳥—』の愛蔵版。北海道出身の主人公・聖真澄はプリマを目指し、東京、モスクワ、ロンドン、ニューヨーク……、様々な人々との出逢いと別れを糧に成長していく。本作の第4巻~第5巻にキエフ・バレエの代表作『森の詩』が、日本初の国立バレエ学校公演の演目として取り上げられる。主役キャストをめぐって競い合い、成長する真澄たちが熱く描かれる。
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