小沼敏郎の『アイデアの育て方』-Classroom 5

カルチャー|2023.3.10
文・写真=小沼敏郎

第五回:アイデアを育てる14日間 / 26の問い Vol.1

「回数」と「角度」でアイデアは育つ

アイデアを育てるのに重要なのは、鋭い思考能力などではない。それについて考える「回数」と「角度」だ。

花を育てるときに、いきなり強い化学肥料を与えるより、まめにあちこちから眺めて状態をチェックしながら、適切な水やりをすることのほうが大事なのと同じだ。

あなたのアイデアについて、とにかく回数多く考えよう。いろいろな角度から考えよう。角度を変えて考えるためには、ときにアイデアから離れてみることも必要だ。

僕は、「アイデアには時間をかけるべき」と確信していて、実際にかなりの時間をかけてアイデアを育てている。しかし、それはダラダラと考え続けることではない。離れたり寝かせたりしながら、角度を変えて、何度も何度も自らに問いかける。その問いかけに答えることで、アイデアはどんどん磨かれ育っていくのだ。

この連載のきっかけとなっている拙著『アイデアの育て方』では、「14日間」にわたって「26の問い」を考えていくことで、アイデアを育てるための「回数」と「角度」が具体的作業工程をこなせるようになっている。ここでは、その26の問いの中から、選りすぐりをピックアップしてお伝えしていく。

Pickup 01:アイデアを育てる準備は整っているか(Q2)

あなたにとっては非常に魅力的なアイデアでも、周囲にはなかなか理解されないこともある。理解されないうちは実現せず、何も変えていけない。しかし、それはあなたのアイデアが間違っているからではない。おそらく育っていないだけだ。

周囲の理解が得られないようなネガティブな局面においても、挫けることなく、アイデアを大事な子どものように育てていく勇気を持たねばならない。実は、アイデアを育てるということは、その表現者である自分自身に自信を持つプロセスでもある。自信を持とう。自信を持ってアイデアを育てていく心の準備をしよう。

同時に、物理的な準備も進めよう。なくてはならないものとして、アイデアのためのノートを買おう。あなたはこれから、そのノートにいろいろなことを書き留める。そして、何度も見直したり、書き加えたり、訂正したりしていく。つまり、ノートは自分自身との対話の赤裸々な記録だ。

アナログなノートではなくてスマホにメモするのではダメなのか、と思うかも知れない。僕としては猛烈にノートへの手書きをすすめる。というのも、あれこれ書いているうちに「手が考えてくれる」ことがある。手で書くことは、すなわち思考力につながるのだ。

そこでは、書くことを面倒がったり、ためらったり、一度書いたことを消しゴムで消したりしてはいけない。訂正するときには、前に書いたことも残しておかねばならない。そのためのノートだから、高価でないほうがいい。1ページに1センテンスくらいの余白だらけでどんどん書いても、何度も広げてボロボロになっても惜しくないものがいい。そして、小さいノートがいい。小さいノートなら、どこにでも持ち歩けるし、混んだ電車の中でも広げられる。

ペンも書きやすさ最優先で選ぼう。あなたなりに、惜しみなく使え、いつでもどこでも書き込みができるノートとペンを用意しよう。

僕の昔のノートは大きいノートに小さな文字だった。そしてだんだんと、ノートは小さく、文字は大きくなっていった。それに比例して、アイデアは加速していった。
「手が考えてくれる」という感覚は、ノートにどんどん手書きをした人にしかわからない。とにかく書いて、書いて、書きまくろう。

Pickup 02:アイデアを言葉にできるか(Q3)

ノートとペンを用意したら、どんどん言葉にして書いてみよう。あなたのアイデアを、話し言葉ではなく書き言葉に変換することはとても大事だ。アイデアそのものについて、湧いてきた疑問について、自分の頭の中に留めておいてはいけない。書こう。

やってみると、思っていることを書き言葉にするのは案外、難しいはずだ。だからこそ、あえてそれをやることで、あなたの考える能力が深化し、アイデアが育っていく。

下手くそでもいい。途中までしか書けなくてもいい。とにかく書いてみよう。そして、何度も書き足したり、書き直したりしてみよう。すると、最初と最後では、あなたのアイデアは赤ちゃんと大人くらいの違いが出ているはずだ。

なお、アイデアを形にするときには、誰かにそれを伝えていかねばならないが、多くは書面が入り口となる。話をすることで追加説明できるのは、書面でクリアしてからだ。だから、あなたのアイデアを書き言葉にする作業は避けて通れない。それを最初から手掛けておくことは、あなたのアイデアに対する愛である。

Pickup 03:そのアイデアで喜ぶ1人と1万人を考えられるか(Q6)

アイデアを立派に育て上げていくには、イマジネーションを与えてあげることが大事だ。自分のアイデアについて、もっともっと想像しよう。あなたのアイデアで、最高に喜んでくれる1人は誰だろう。もし、20代の女性なら、どこでどんな生活をしていて、何に悩んでいるのだろうか。顔や名前、仕事ぶりまで想像してみよう。あるいは、友人や恋人をあてはめてみてもいいだろう。

その一人が、あなたのアイデアによって喜んでくれるストーリーを、徹底的に突き詰めて考えよう。想像できない部分があってはダメだ。アイデアが実現したときに、相手はその価値を受け取って、どんな反応をして、どう変わってくれるのか、具体的にストーリーで考え抜こう。実際に、そのストーリー通りになるかどうかが問題なのではない。そこまで突き詰めて考えないと、アイデアは育たないということだ。

次に、1万人という不特定多数を喜ばせることができるかを考えてみよう。すると、一人を相手にしたときとはまったく状況が違ってくるはずだ。たとえば、1人相手に5時間かけたことを、1万人に対して同じようにはできない。

また、1人にだったら通用したことも、1万人に対してはそうではない。1人が大好きな特殊な趣味本を、1万人に愛読しろというのは無理な話だ。マクロを対象にした途端、できないことも増えてくるのだ。

もっとも、あなたのアイデアがマクロに向いていればいいというものでもない。ビジネスに換算すれば、1人500円で1万人に売る方法と、1人に500円で売る方法がある。実際に、イーロン・マスクは、NASAに初期顧客を絞ってロケットをつくるビジネスを成立させている。

ただ、確実に言えるのは、「1人を喜ばせることができない人は、1万人を喜ばせることはできない」ということだ。まずは、1人を対象として超ミクロで考え、それを超マクロに移行できるかをイマジネーション豊かに考え続け、ノートに書き連ねていこう。


次回、最終回の配信日は、3月24日です。

『アイデアの育て方』 小沼敏郎 著
著者は閃くアイデアを求めるよりも、大切なのは平凡なアイデアをじっくりと時間をかけて育てていくことだと説く。 年齢、経験、才能は関係ない。小さなノートとペンと、あなたの頭があればいい。 これからのあなたの生き方を変える一冊。

小沼敏郎 Toshiro Konuma

マルチクリエイター / ビジネスプロデューサー / 実業家 / 作家

<著書>
『アイデアの育て方』東急エージェンシー、2022年
『おにぎりはどこからきた?』東急エージェンシー、2019年
『モクモクはどこからきた?』オンライン絵本(&紙芝居化)一般社団法人 全国木材組合連合会

<掲載>
『For Inspiration -インスピレーションの正体』別冊太陽
『おにぎりのルーツから世界のつながりについて問いなおす絵本』好書好日
『理想のゴールまで、経営者は事業にどう関わるべきかミクシィ流・新規事業の成功法則』ダイヤモンド・オンライン
『企業にとってSDGsは、競争優位性に寄与するキーワード』講談社SDGs

<主な経歴>
Konuma & Co., Ltd. CEO
HIS Co., Ltd. Executive Producer, 戦略顧問
POLA R&M 特別顧問
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ Business Developer
SAKURA法律事務所 Management Director
EY Japan Well-being Initiative Adviser , Creative Director
株式会社電通 新規事業創出 Mentor
三井不動産株式会社 新規事業提案制度Mag!c Advisor
ソニーミュージックグループ アクセラレーションプログラム「ENTX」 Mentor
WIRED / WIRED REAL WORLD Marketing Advisor
株式会社スコラ・コンサルト Partner

<主な実績>
AWS (Amazon Web Service) Summit 2019 のオープニングアクト 総合演出・シナリオライト
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2019‐2022)
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2022‐)
株式会社エイチ・アイ・エス のパーパス(HIS Group Purpose)「心躍る(ココロオドル)を解き放つ」考案
株式会社エイチ・アイ・エスのバリュー(HIS Group Value)「冒険と挑戦」「スピードとアジリティ」「バランスと倫理観」コピーライティング
H.I.S.Mobile株式会社コーポレイトロゴデザイン
株式会社明光ネットワークジャパン パーパス・タグライン「やればできるの記憶をつくる。」考案
株式会社明光ネットワークジャパン ビジョン「“Bright Light for the Future” 人の可能性をひらく企業グループとなり輝く未来を実現する」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン バリュー「隣に立つ」「繋ぐ」「自分にYES」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン CM制作(yesシリーズ / Executive Creative Director)
個別指導の明光義塾オリジナルソング「yes」作詞
ハウス食品 カモンハウス こども新聞記者プロジェクト 監修
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ主催 QSchool「オリジナリティからはじめる新規事業」講師(2018‐)
Tech Open Air* 2018(TOA)World Tour TOKYO Blockchain 2.0 登壇
POLA R&M me-fullnessプロジェクト ロゴデザイン、ネーミング開発
株式会社オリエンタルランド 未来創造プロジェクト ゲスト講師
Tokyu Agency 2U Academy 「アイデアの育て方 / 仕事の育て方 / 自分の育て方」ゲスト講師

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