小沼敏郎の『アイデアの育て方』-Classroom 2

カルチャー|2023.1.27
文・写真・絵|小沼敏郎

第二回:アイデアとは物語である

僕たちは、一人残らずアイデアマン

アイデアは、すべての創造的な活動の根源だ。そして創造的活動とは、日常そのものだ。その日どんな服を着ていくか、夕飯の献立は何にするか、デートでどこに行くか、困っている友人にどうアドバイスするか……僕たちはいつもアイデアを必要としている。そして、日常的にアイデアを使っている。

僕たちはみんな、一人残らずアイデアマンなのに、いったん「アイデアを出さなければ」となると、途端に構えてしまう。なにか天才的なひらめきが必要で、それは一部の特別な人間にしかできないとでもいうように。

しかし、本当に優れたアイデアは、一部の特別な人間ではなく、ごく普通の人こそ花開かせることができる。というのも、アイデアは人々の生活を豊かに、便利にするために必要とされるものだ。だから、実は多くの人がすでに、「こんなものがあったらな」という優れたアイデアの芽を持っているはずなのだ。

僕が育ててきたアイデア、実現してきたアイデアも、その延長だ。突飛なものは一つもない。むしろ、アイデアは突飛なものであってはならないというのが僕の持論だ。

着想は“平凡”でいい。育てるプロセスがアイデアを “非凡”に変える

ライト兄弟は「人間が空を飛ぶ」というアイデアを実現した。このアイデアに対し「できっこない」と否定した人は多かったことだろう。でも「空を飛べたらいいな」と思っていた人は、ライト兄弟以前からたくさんいたはずだ。だから、このアイデア自体はちっとも突飛ではなく、むしろありふれた平凡なものだった。ただ、それを実行したという点において、ライト兄弟は突飛だったと言える。

では、どうして実行できたのだろう。それは、ほかの人たちが育てなかったアイデアを、彼らはひたすら丁寧に育てたからだ。当たり前の話だが、アイデアは形になってはじめて価値がある。アイデアだけで世界は変わらない。アイデアを育てて実行すると世界が変わる。

アイデアは、育てるというプロセスがある作業だ。その作業に丁寧に向き合っていけば、アイデアはぐんぐんカタチを変えていく。「人間が空を飛ぶ」という平凡な着想(アイデア)を、丁寧に育てていったライト兄弟は、最終的に非凡なアイデアへと辿り着き、実行した。そして、人類初の有人動力飛行に成功した。

アイデアが生まれた瞬間、ひらめきは美しく華がある。しかしそれはアイデアの一要素に過ぎない。

アイデアとは物語である

アイデアの誤解がここにある。「アイデア=ひらめき」ではないのだ。アイデアは着想した瞬間に勝負が決まるものではない。生まれた瞬間だけで価値は決まらない。多少の優越があったとしても、着想に本質はない。アイデアはひらめきではない。アイデアは点ではない。アイデアは刹那的なものではない。

アイデアは、もっと広くて長いものだ。育っていくという時系列があるものだ。誰かに影響を受けたり、否定されたり落ち込んだりする事件があって、それでも挫けず実現していく旅のようなもの。アイデアとは物語である。

アイデアは旅であり、物語である。更に言えば、ネバーエンディングストーリーである。

アイデアは横に広げず、縦に極める

アイデアは、思いつきが1%、努力が99%だと僕は考えている。多くの人がすでに持っているアイデアを、誰かが素晴らしい成果として結実させるのは、99%努力によるものだ。そして強調しておきたいのが、その努力もたいしたものではないということだ。

たしかにライト兄弟のように飛行機をつくるのは、ちょっと大変かもしれない。しかし世にある99%のアイデアは、一般的に誰でもできる。ひたすらど真ん中のポールを上に上にと登り続ければいいのである。

アイデアは、横に広げていくのではなく、縦に極めたほうがいい。ライト兄弟は縦に極めた。ひたすら「人間が空を飛ぶ」を追求したから実現した。

多くの人は横に広げて失敗する。「横に逃げている」と表現したほうが正確かもしれない。あなたが、あるアイデアを持っているとしよう。そのアイデアはきっとほかの人も持っている。すると、あなたはこう考えるかもしれない。「みんなが思いつくんじゃつまらない」と。本当はつまらなくないから多くの人が思いつくのだが、多くの人が思いつくからつまらないと判断してしまうのは、非常にもったいない。

そして、「多くの人が思いつかないものを考えよう」となれば、発想を横に広げていくしかない。横に広げていけば、中心から遠ざかる分、ニッチになりエッジが効いてくる。「冴えている」と感じる。しかし、それは本質からズレていることを意味する。「どうだ。こんなことは誰も思いつかないだろう」と息巻いてみても、ニーズの乏しいものなのだ。
 
それよりも、ほかの人が横に逃げている間に、縦に高く登っていこう。多くのニーズがあるところを徹底して極めていけば、大きな花が開く。

縦に極めるための「99%の努力」とは「アイデアを育てる作業」に他ならない。アイデアの具体的な育て方を、以降の連載でお伝えしていく。


※次回配信は2月10日、「クリエイティブ対談」の回になります。

『アイデアの育て方』 小沼敏郎 著
著者は閃くアイデアを求めるよりも、大切なのは平凡なアイデアをじっくりと時間をかけて育てていくことだと説く。 年齢、経験、才能は関係ない。小さなノートとペンと、あなたの頭があればいい。 これからのあなたの生き方を変える一冊。

小沼敏郎 Toshiro Konuma

マルチクリエイター / ビジネスプロデューサー / 実業家 / 作家

<著書>
『アイデアの育て方』東急エージェンシー、2022年
『おにぎりはどこからきた?』東急エージェンシー、2019年
『モクモクはどこからきた?』オンライン絵本(&紙芝居化)一般社団法人 全国木材組合連合会

<掲載>
『For Inspiration -インスピレーションの正体』別冊太陽
『おにぎりのルーツから世界のつながりについて問いなおす絵本』好書好日
『理想のゴールまで、経営者は事業にどう関わるべきかミクシィ流・新規事業の成功法則』ダイヤモンド・オンライン
『企業にとってSDGsは、競争優位性に寄与するキーワード』講談社SDGs

<主な経歴>
Konuma & Co., Ltd. CEO
HIS Co., Ltd. Executive Producer, 戦略顧問
POLA R&M 特別顧問
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ Business Developer
SAKURA法律事務所 Management Director
EY Japan Well-being Initiative Adviser , Creative Director
株式会社電通 新規事業創出 Mentor
三井不動産株式会社 新規事業提案制度Mag!c Advisor
ソニーミュージックグループ アクセラレーションプログラム「ENTX」 Mentor
WIRED / WIRED REAL WORLD Marketing Advisor
株式会社スコラ・コンサルト Partner

<主な実績>
AWS (Amazon Web Service) Summit 2019 のオープニングアクト 総合演出・シナリオライト
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2019‐2022)
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2022‐)
株式会社エイチ・アイ・エス のパーパス(HIS Group Purpose)「心躍る(ココロオドル)を解き放つ」考案
株式会社エイチ・アイ・エスのバリュー(HIS Group Value)「冒険と挑戦」「スピードとアジリティ」「バランスと倫理観」コピーライティング
H.I.S.Mobile株式会社コーポレイトロゴデザイン
株式会社明光ネットワークジャパン パーパス・タグライン「やればできるの記憶をつくる。」考案
株式会社明光ネットワークジャパン ビジョン「“Bright Light for the Future” 人の可能性をひらく企業グループとなり輝く未来を実現する」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン バリュー「隣に立つ」「繋ぐ」「自分にYES」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン CM制作(yesシリーズ / Executive Creative Director)
個別指導の明光義塾オリジナルソング「yes」作詞
ハウス食品 カモンハウス こども新聞記者プロジェクト 監修
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ主催 QSchool「オリジナリティからはじめる新規事業」講師(2018‐)
Tech Open Air* 2018(TOA)World Tour TOKYO Blockchain 2.0 登壇
POLA R&M me-fullnessプロジェクト ロゴデザイン、ネーミング開発
株式会社オリエンタルランド 未来創造プロジェクト ゲスト講師
Tokyu Agency 2U Academy 「アイデアの育て方 / 仕事の育て方 / 自分の育て方」ゲスト講師

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