小沼敏郎の『アイデアの育て方』-Classroom 3

カルチャー|2023.2.10
写真=松村隆史 文=宮崎謙士(みるきくよむ)

第1回 クリエイティブ対談 佐倉康彦・クリエイティブディレクター 【前編】

アイデアとは、 孤独な実感知である。

『アイデアの育て方』の著者であり、若きビジネスプロデューサーとして、政官財あらゆるジャンルや垣根を超えて活躍する小沼敏郎。彼が注目する「クリエイターの先人」のもとを訪れ、アイデアを育てる方法論について話を伺うクリエイティブ連載企画。第1回目は、クリエイティブディレクター、コピーライターとして数々の名言を世に問う佐倉康彦。その言葉を生む源泉になるものは、一体何なのだろうか。

佐倉康彦
株式会社ナカハタ代表取締役。クリエイティブディレクター・コピーライター・CMプランナー。TCC賞、ACC賞など受賞多数。代表作に、サントリー ザ・カクテルバー「愛だろ、愛っ。」、パーソルグループ「はたらいて、笑おう。」、リクルートエージェント「つぎの私は、プロとはじめる。」、日清食品「おいしいの、その先へ。」、イザック「大好きというのは、差別かも知れない。」、GUNZE BODY WILD「男のパンツの、広告してます。」他多数。現在は広告だけにとどまらず、ショートフィルムやプロダクト開発、シティプロモーションなども手がける。

アイデアは、言葉から生まれる。

佐倉:初めて小沼さんに会ったのは、個別指導の学習塾のお仕事でご一緒したときでしたね。会う前に、小沼さんがクライアントに提出したプランの存在意義がどうあるべきかを書いたステートメントを拝見したんです。文字の書体やQ数の選び方、思いを伝えるために用意して貼り付けられていた画像の一つ一つを見ると、小沼さんは意外とビジュアルの人なのかなという印象を受けました。

小沼:そうでしたか。初めてそういう話を伺ったので・・・嬉しいです。(笑)

佐倉:企業や広告戦略のパーバスなどは、ちゃんと理詰めで説明しているんだけど、左脳で発想している文章ではなく、右能がめちゃめちゃ作用しながらロジカルに書かれている。右脳的な発想からロジカルに文章を考えてアイデアを出されているという点では、僕もちょっと似ているのかなと思いました。

小沼:僕は意外とアナログで、ふだんから書きやすいフェルトペンを使ってノートにアイデアを色々と書きつけています。プランの目的やそこから生み出される価値、登場する人物など、あれこれ頭の中に浮かぶイメージを書き言葉に変換して書いているうちに、手が勝手に動き出して考えてくれることがある。それが思考力になって、アイデアが育っていく感覚があります。

佐倉:僕はコマーシャルのプランナーとして仕事もするけど、もともとコピーライターだから、言葉を発想するときも映像をイメージするときも、最初の発想は言葉なんですよ。例えば「そこに砂漠があってと」いうのも、最初は全部言葉じゃないですか。それを可視化してくと映像になっていく。結局言葉っていうのは、やっぱりアイデアの立てつけを決めていくときに一番大きな青図になっている気がしますね。

大切なのは実感知。だから孤独になる。

小沼:具体的に佐倉さんの代表的なコピーを拝見すると、日清食品のカップヌードル「おいしい、の その先へ。」やサントリーのザ・カクテルバー「愛だろ、愛っ。」、最近だと、パーソルの「はたらいて、笑おう。」も、結構、ど真ん中を掘っていって行き着いた言葉なのかなと思ったんです。ああいうコピーはどのように考えていくと、あそこまで深く到達できるんでしょうか。

佐倉:うーん、言い回しを探しているわけじゃなくて、結局どっかで実感知なんじゃないかな。やっぱり「はたらいて、笑おう。」なんて、自分がいろんな仕事やミッションに関わって本当に笑えているかどうかを考えてみると、実際は、仕事が終わって完パケを納品して、打ち上げで大笑いしているときぐらい。仕事をしているときに本当にリアルに笑えるかどうかって、すごく疑問だったりする。ど真ん中を掘るっていう言い方がフィットするかどうかよく分からないけど、俺は実感知を言葉にしている感覚。結構、最初のアイデアって孤独だったりするのかなって。

小沼:アイデアの孤独。良い言葉だなーって今めちゃめちゃ響いています。まさにおっしゃる通りで、アイデアを世の中に送り出して価値を生むまでに個人ができることってたかがしれていると思うんです。でも、アイデアに限らず、いま仕事を進めていく中で、なんて言うんですかね、「みんなで考えよう、みんなでやろう」みたいな、ラクな方に流れていきがちな風潮がある。果たして、そういうやり方で新しいアイデアが生まれるかどうかは疑問を感じています。それって一種の逃げじゃないのか?という疑問です。

佐倉:いまは便利だから、パソコン開いてちょっとググれば、大概のことはわかるじゃないですか。提案する側は、どこからか借りてきたものを出してきて、受けて側も、借りてきたものをググって調べ直して、「OK」とか「NO」とかってやってる。そんなことをやっていても意味がない。結局ネット上にあるのは、リファレンス用の総合知だから。やっぱり個人の実感知みたいなものをどうやって作っていくのかが、新しいアイデアを生み出すには大切なんじゃないかな。

小沼:アイデアを誰かに提案するということは、誰にとっても怖いこと・恐ろしいことだと思います。アイデアを突き詰めていくと最終的にシンプルな言葉に辿り着く。でも、シンプルだからこそ「それで?」って否定的な反応が返ってくることもある。だから孤独というか、最初のアイデアをひとりで限界まで考え切って、緊張感の中でアイデアに向き合うプロセスや時間こそが大事なのかなって思ってるんです。それがないと怖さに打ち勝って、アイデアを伝える勇気がつくれない。

自分一人で考えているものなんて限界がある

佐倉:いまどきは「アイデアラッシュしましょう」っていうと、必ずパソコンで調べたものを出力してきて、それを自分のアイデアに貼り付けて出す。でも、それも違うよね。それはもう自分のアイデアを育てていくためにディティールを詰めていくためのプロセスから出てきたものだから。いまマズいのは、アイデアを受ける側がそういうリファレンスが根拠としてないと理解くれない。

小沼:佐倉さんと仕事させてもらって、非常にいろんな方の意見を聞いてくださる印象があります。一方で、みんなでディスカッションしたみんなの意見をいったん持って帰って、ご自身の中で再編集されて、最終的にはしっかり佐倉さんのフィルターを通したアイデアとしていつも提案してくださる。そういう孤独なプロセスの中にこそ、アイデアを育てる力があるんじゃないかと僕は思うんです。

佐倉:まあ、アイデアって大概言葉だから、音楽と違って、みんなが使ってるツールだから批評しやすい。簡単に突っこめるし、ダメ出しもできる。でも、誰かが本気で出してきたアイデアに対しては、批評とか、好き嫌いではなくて、ある課題やミッションをクリアするためには違う手立てやアイデアの方がよい、とできるだけ具体的に言ってあげたほうがいい。そうやってほかの人のアイデアを添削していると、自分が考えていた思考もう一回再確認できる。だから、人のアイデアをたくさん見ることは本来すごく面白いと思うし、面白いとか大切なのかな、人のアイデアをたくさん見て、そこでこう色んな事を言っていると、そのアイデアに自分のそのミッションで考えてきたこう思考がちゃんと整理できたり、もう一回、違う立ち位置からのスタートできる。

小沼:僕もアイデアを育てるのに重要なのは、じつは鋭い思考能力ではなく、それについて考える「回数」と「角度」なんだと思うんです。アイデアについて考える回数を多くする、それでも難しければ、角度を変えて、もう一回考えてみる。角度を変えるという意味では、何人かのアイデアを一生懸命見るのも、自分のアイデアを生み出したり育てたりするときに大切なのかなと思います。

佐倉:自分一人で考えているものなんて限界があるわけです。なんか同じ課題に対して考えている脳みそが自分以外にあと5個ぐらいあった方がいいなって思うこともある(笑)。そうすれば知見も広がって、見えてくる景色も変わってくるし、それによってアイデアが育つというか、ドライブがかかる瞬間があるから。本来の会議もそういうものなんだろうけど、いまは報告会になっちゃてる。

小沼:5という数は、話を聞くにはちょうどいいですね。実際、会議に大勢いても、真剣に考えている人はそれぐらいかもしれませんね(笑)。

後編に続く。

次回配信日は、2月24日です。

『アイデアの育て方』 小沼敏郎 著
著者は閃くアイデアを求めるよりも、大切なのは平凡なアイデアをじっくりと時間をかけて育てていくことだと説く。 年齢、経験、才能は関係ない。小さなノートとペンと、あなたの頭があればいい。 これからのあなたの生き方を変える一冊。

小沼敏郎 Toshiro Konuma

マルチクリエイター / ビジネスプロデューサー / 実業家 / 作家

<著書>
『アイデアの育て方』東急エージェンシー、2022年
『おにぎりはどこからきた?』東急エージェンシー、2019年
『モクモクはどこからきた?』オンライン絵本(&紙芝居化)一般社団法人 全国木材組合連合会

<掲載>
『For Inspiration -インスピレーションの正体』別冊太陽
『おにぎりのルーツから世界のつながりについて問いなおす絵本』好書好日
『理想のゴールまで、経営者は事業にどう関わるべきかミクシィ流・新規事業の成功法則』ダイヤモンド・オンライン
『企業にとってSDGsは、競争優位性に寄与するキーワード』講談社SDGs

<主な経歴>
Konuma & Co., Ltd. CEO
HIS Co., Ltd. Executive Producer, 戦略顧問
POLA R&M 特別顧問
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ Business Developer
SAKURA法律事務所 Management Director
EY Japan Well-being Initiative Adviser , Creative Director
株式会社電通 新規事業創出 Mentor
三井不動産株式会社 新規事業提案制度Mag!c Advisor
ソニーミュージックグループ アクセラレーションプログラム「ENTX」 Mentor
WIRED / WIRED REAL WORLD Marketing Advisor
株式会社スコラ・コンサルト Partner

<主な実績>
AWS (Amazon Web Service) Summit 2019 のオープニングアクト 総合演出・シナリオライト
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2019‐2022)
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2022‐)
株式会社エイチ・アイ・エス のパーパス(HIS Group Purpose)「心躍る(ココロオドル)を解き放つ」考案
株式会社エイチ・アイ・エスのバリュー(HIS Group Value)「冒険と挑戦」「スピードとアジリティ」「バランスと倫理観」コピーライティング
H.I.S.Mobile株式会社コーポレイトロゴデザイン
株式会社明光ネットワークジャパン パーパス・タグライン「やればできるの記憶をつくる。」考案
株式会社明光ネットワークジャパン ビジョン「“Bright Light for the Future” 人の可能性をひらく企業グループとなり輝く未来を実現する」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン バリュー「隣に立つ」「繋ぐ」「自分にYES」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン CM制作(yesシリーズ / Executive Creative Director)
個別指導の明光義塾オリジナルソング「yes」作詞
ハウス食品 カモンハウス こども新聞記者プロジェクト 監修
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ主催 QSchool「オリジナリティからはじめる新規事業」講師(2018‐)
Tech Open Air* 2018(TOA)World Tour TOKYO Blockchain 2.0 登壇
POLA R&M me-fullnessプロジェクト ロゴデザイン、ネーミング開発
株式会社オリエンタルランド 未来創造プロジェクト ゲスト講師
Tokyu Agency 2U Academy 「アイデアの育て方 / 仕事の育て方 / 自分の育て方」ゲスト講師

RELATED ARTICLE