「バレエ界の女王」ザハロワ、英国ロイヤルほか12名が一堂に!
今年も、様々なバレエのガラ公演が開催されたが、苦境を乗り切って、世界各地から12名のスターたちが一堂に会したガラ公演が大盛況のうちに実施されたのは、奇跡に近いと言っていいかもしれない。
AB二つのプログラムは、各15曲で構成され、ガラの華と称される古典の人気グラン・パ・ド・ドゥから最先端のコンテンポラリーまで実に幅広い。世界のバレエ地図を見渡し、国境を越えたフュージョンを満喫した気分にさせてくれるに十分だった。
まず華麗なテクニックの醍醐味を堪能させたのは、英国ロイヤル・バレエのマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフの盤石のペア。Aプロで「黒鳥」、Bプロで『海賊』、両プロで『ドン・キホーテ』という「3大パ・ド・ドゥ」を踊り、いずれも超絶技巧の応酬で沸かせた。来年6月のバレエ団との来日が今から楽しみでならない。
ボリショイというよりはむしろ「バレエ界の女王」として世界に君臨するスヴェトラーナ・ザハロワは、Aプロの『瀕死の白鳥』、Bプロのバランシン振付『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」という「白のバレエ」2曲で崇高な輝きを放ち、まさに至芸。片や、パトリック・ド・バナの創作『Digital Love』では、ド・バナを相手に極限まで身体を解放し、挑戦し続ける孤高のプリマの姿を強烈に焼きつけた。
パリ・オペラ座から3名。ルグリの「ラスト・ダンス」が白眉
パリ・オペラ座バレエのマチュー・ガニオの輝きにも目を奪われた。Aプロの『月の光』は、英国のアラスター・マリオットの振付によるソロ。ドビュッシーの名曲に乗せて踊る姿は、さながら、月光を浴びた舞踊神。今回日本で初めてローラン・プティの2作品を踊ってくれたのも嬉しかった。ガニオの両親(ドミニク・カルフーニとドゥニ・ガニオ)は、プティ作品の最高の体現者。両プロで『病める薔薇』を、Bプロで『ランデヴー』を、旧知のエレオノラ・アバニャートと踊り、滅びゆく美への哀愁を色濃く描き出し、深い感銘を与えた。
英国勢では、ナタリア・オシポワとエドワード・ワトソンが、鋭敏な現代作品で気を吐いた。中でもオシポワがAB両プロで踊ったジェイソン・キッテルバーガーの『Ashes』は、衝動的な心理を活写し、Bプロのアーサー・ピタ振付『Somebody Who Loves Me』では、タフな二人の丁々発止のやり取りが痛快だった。
パリ・オペラ座の究極の貴公子として名を馳せ、ウィーン国立バレエを経て、現在ミラノ・スカラ座バレエを率いるマニュエル・ルグリは、「ラスト・ダンス」として、両プロの最後に『The Picture of…』を選んだ。オペラ座引退を目前にした2008年、盟友ド・バナによって創られたソロの新版。一挙手一投足に生命力がこもった渾身のソロは、往年の凛々しい面影を蘇らせると共に、次世代へ舞踊の未来を託すかのよう。ガラの最後を締めくくるにふさわしい名演だった。
カーテンコールも盛大に、2023年に夢と希望をつなげた幕切れだった。(Aプロ:11月24日、Bプロ:26日 東京文化会館)