誰もが知っている国民的漫画「サザエさん」。
作者の長谷川町子は日本で初めての女性漫画家であり、漫画家で唯一、国民栄誉賞を受賞した人物でもある。だが、「サザエさん」以外に多くの仕事をしたことは意外と知られていない。生誕100年を経た今、その多岐にわたる作品世界を追ってみたい。
「サザエさん」シリーズの単行本は、長谷川家の三姉妹によって設立された「姉妹社」から30年にわたり刊行された。その表紙は細部まで凝りに凝った描き込みがなされ、遊び心にあふれている。本書ではアートディレクターの峯崎ノリテルさんが、センスあふれる原画を選んで見どころを解説している。
長谷川町子は「サザエさん」を連載中、何度も休載した。持病の胃痛のせいもあったが、周期的に「はたして自分は、これでいいのか? もっとほかに才能があるんじゃなかろうか」という深刻な迷いにおちいり、町子は紙やペンなどの仕事道具をすべて燃やしてしまったという。そして趣味の刺繡や陶人形作りにいそしんだ。写真の「酒武士」と名付けられた陶人形、酒徳利を枕に武士がゴロン、猫もゴロン。町子のユーモアセンスに思わず頰がゆるんでくる。
知られざる作品の一つに『町子かぶき迷作集』がある。無類の歌舞伎好きだった町子が捧げた歌舞伎パロディーの短編漫画集。じつは町子は「花の海老さま」として大ブームを巻き起こした九代目市川海老蔵(十一代目市川團十郎)の大ファン。イケメン好きだった。
この作品は町子の歌舞伎への愛情、造詣の深さが感じられる隠れた傑作といえるだろう。
長谷川町子生誕100年を記念して令和2年(2020)7月、「長谷川町子記念館」がこれまでおなじみの長谷川町子美術館の分館として開館した。ここでは直接鑑賞することが難しかった貴重な原画などの作品展示を中心に、幼い子どもも楽しめる体感型のコーナーや充実したミュージアムショップなど、町子の世界を存分に楽しめる施設になっている。
同館の川口淳二館長は、「町子先生は昭和を丁寧に描き出している一方で、未来へのメッセージも作品に込めているのではないかと思います」と語る。長谷川町子美術館と長谷川町子記念館は、東京都世田谷区桜新町の「サザエさん通り」のシンボルとして数多くのファンを出迎えている。
「長谷川町子記念館」