長岳寺 花と猫に和む寺│ゆかし日本、猫めぐり#1

コラム|2022.5.20
文=堀内みさ|写真=堀内昭彦

猫を通して日本を知る、「ゆかし日本、猫めぐり」。第一回は、奈良県天理市の長岳寺で出会った、愛らしい猫をお送りします。

かきつばたが咲き揃う古寺で、猫に出会う。

日本最古の道、山辺の道沿いにある長岳寺は、天長元年(824)、淳和天皇の勅願により、弘法大師空海が大和(おおやまと)神社の神宮寺として創建したと伝わる古刹。静かなお顔のご本尊、阿弥陀如来坐像をはじめ、仏像5体、建造物4棟が国の重要文化財に指定されている。

平戸つつじの生垣が続く参道を歩き、日本最古の鐘楼門をくぐると、そこは極楽浄土を再現したという浄土式庭園。四季折々、色とりどりの花が拝観者を楽しませる。
 特に華やぐのは、かきつばたやつつじなどが咲き揃う5月。その様子を、ご住職の北川慈照さんは「花浄土」と表現する。

この寺で生まれ育ち、気がつけばいつも猫がいたと話すご住職。「もう飼わん、今度こそ飼わん言うとっても、猫が絶えたことはありません」とおっとり笑う。
 この日も境内のあちこちで猫と出会った。

境内の面積は、約1万2000坪。
 山裾にありながら、山深い寺に身を置いているような穏やかな静寂に包まれて、ご本堂とかきつばたを眺めていたら、猫がぬーっと現れた。

しばし池の周囲を巡った猫は、突如足を止め、かきつばたを眺めた。と思いきや、よく見ると、なんと放尿!
 千年を超える寺の歴史もなんのその。猫にとっては、今この瞬間の気持ち良さの方が大切なのだ。

長岳寺の歴史は、まさに栄枯盛衰。盛時には48ヶ坊の塔頭が建ち並び、衆徒約300名が居住する広大な寺領を有していた。
 だが応仁の乱や文亀3年(1503)の兵乱で、その多くが焼失。豊臣秀吉の時代には、寺領を没収されたこともあったという。その後、慶長7年(1602)に、徳川家康の支援により復興を果たした。長い歴史の背景には、守り継いできた人々の懸命な想いが積み重なっている。

現在庫裡として使われている旧地蔵院も、かつてあった塔頭の中で唯一残ったもの。書院造りの座敷を通ると、縁側で猫が瞑想(?)していた。人が来ても動じない。さすが古刹の猫。風格がある。

猫たちは、寺猫としてのお勤めも立派に果たす。この日も代わる代わる拝観者をお出迎え。

もっとも、その陰で、人知れず寺務所の扉を四苦八苦して開けていたことも、こっそりご紹介しておこう。

「時折苦虫を噛み潰したような顔で拝観される方がいらっしゃいますが、猫を見た途端、にこーっとされて頭を撫でたりされます。動物は無心だから、人を癒すのでしょうね」とご住職。
 花、そして猫。気がつけば、すっかり心が和んでいた。

次回配信日は、6月3日の予定です。

高野山真言宗 釜ノ口山 長岳寺

〒632-0052
天理市柳本町508
☎0743-66-1051
拝観時間:午前9時〜午後5時

堀内昭彦
写真家。ヨーロッパの風景から日本文化まで幅広く撮影。現在は祈りの場、祈りの道をテーマに撮影中。別冊太陽では『日本書紀』『弘法大師の世界』などの写真を担当。著書に『ショパンの世界へ』(世界文化社)、『おとなの奈良 絶景を旅する』(淡交社)など。写真集に『アイヌの祈り』(求龍堂)がある。

堀内みさ
文筆家。主に日本文化や音楽のジャンルで執筆。近年はさまざまな神社仏閣をめぐり、祭祀や法要、奉納される楽や舞などを取材中。愛猫と暮らす。著書に 『カムイの世界』(新潮社)、『おとなの奈良 心を澄ます旅』(淡交社)、『ショパン紀行』(東京書籍)、『ブラームス「音楽の森へ」』(世界文化社)など。

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