世界のスターダンサー、34名が東京に集結!
3年に一度のバレエの祭典〈世界バレエフェスティバル〉が、第17回を迎え、7月から8月にかけて連日熱い饗宴を繰り広げた。幕開きは、全幕特別プロ『ラ・バヤデール』マカロワ版で、マリアネラ・ヌニェス&リース・クラークとオリガ・スミルノワ&ヴィクター・カイシェタの2組が、東京バレエ団と共演、美技を競って幸先よいスタート。前者は、劇的なドラマ作りを強調、後者は、スケール大きな表現で対抗、甲乙つけ難い。
敵役ガムザッティを演じた上野水香と伝田陽美はじめ、黄金の仏像を好演した宮川新大と池本祥真のソリスト陣は、ゲストに堂々と渡り合い、定評ある群舞もさらにブラッシュアップされ、舞台に花を添えた。
このフェスティバルの魅力は、何と言っても、日本にいながらにして、世界のバレエの現在から未来を展望できることだろう。
『ラ・バヤデール』で至芸を競ったヌニェスとスミルノワは、続くプロでも、その輝きと存在感で群を抜いていた。ヌニェスは、今度は貴公子ワディム・ムンタギロフと組み、オーラが倍加。『ドン・キホーテ』『海賊』『眠れる森の美女』という王道の古典バレエで、パ・ド・ドゥの醍醐味を余すところなく伝えた。一方、スミルノワは、Aプロのみの参加だったが、マイヨー振付『くるみ割り人形』とファン・マーネンの『3つのグノシエンヌ』の2曲を披露し、観客を官能性と理性の好対照の境地に誘った。
ボリショイ・バレエのベテラン、マリーヤ・アレクサンドロワが、ボリショイを代表する貴公子ヴラディスラフ・ラントラートフを相手に、バレエ王国の威信をかけた気迫のステージを見せてくれたのもうれしい。プティの『スペードの女王』は手に汗握る展開で、『ライモンダ』は格調高く、『ドン・キホーテ』は技巧の応酬を楽しんでいるような余裕さえあった。
永久メイと菅井円加の存在感が光る!
頂点を極めたスターたちと共に、日の出の勢いにある新進のスターたちに出会えたのも幸運だった。その最たるものが、マリインスキー・バレエの永久メイとハンブルク・バレエの菅井円加。共にその実力のほどは知られているが、このような大舞台で、世界の名花たちと競っても一歩も引けを取らないのが実に誇らしかった。
永久は、これまた破格のスケールのキム・キミンと組んだことで、本来の可憐な魅力を一層花開かせた。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』の涼風を思わせるスピード感、『海賊』の華麗な様式美、『ジュエルズ』の光彩が忘れ難い。そしてキムは、爆発的なエネルギーで超絶技巧を惜しげもなく披露し、恐らく今回最も客席を熱狂させた風雲児と言えよう。
菅井は、『マーラー交響曲第3番』などノイマイヤー作品を3曲、アレクサンドル・トルーシュと踊ったが、微細なニュアンスが新鮮。Bプロでは、最後に『ドン・キホーテ』をダニール・シムキンと共演。回転に跳躍に超絶技巧を悠然と競い合う駿馬のような二人の雄姿がまばゆかった。
シュツットガルト・バレエ団の新星マッケンジー・ブラウンとガブリエル・フィゲレドは、クランコ版『白鳥の湖』からノヴィツキーの『ア・ダイアローグ』やゲッケの『悪夢』まで自在に踊りこなせる大器ぶりが注目された。
円熟の演技が心に残る名演の数々
ベテランたちの円熟の演技も味わい深い。今回最年長のジル・ロマンは、小林十市とフルーエンレイツ振付の『空に浮かぶクジラの影』とベジャールの『ブレルとバルバラ』を踊って、とりわけ後者の哀愁を秘めた表現が心に残る。ロマンとディアナ・ヴィシニョーワの『ニーベルングの指環』はベジャール全盛期の思い出を蘇らせた。イタリアの生んだ名花アレッサンドラ・フェリは、ロベルト・ボッレと『アフター・ザ・レイン』と『ル・パルク』を披露。還暦を過ぎても妖精の面影を失わず、渾身の演技で〈ラスト・ステージ〉を飾った。
マルセロ・ゴメスとヴィシニョーワの『シナトラ組曲』は大人の恋のかけひきを演じて秀逸。男性同士のデュエットでは、アレクサンドル・リアブコが、ゴメスと踊った『アミ』と、ボッレとの『作品100〜モーリスのために』が親愛の情を切々と歌い上げ感動を呼んだ。リアブコが、お馴染みのシルヴィア・アッツォーニと組み、ウィールドンやノイマイヤー作品で、滋味溢れる独特の世界観を醸し出したのも貴重だ。
パリ、ロンドン、シュツットガルト、ドラマティック・バレエの競演
パリ・オペラ座からの2組は、ドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャンが、『ジゼル』と『オネーギン』で感情が滲み出るような名演を刻みつけ、オニール八菜とジェルマン・ルーヴェは、『シルヴィア』『ソナチネ』などがエレガント。
英国ロイヤル・バレエ団からは、ヌニェスとムンタギロフのほか、サラ・ラムとウィリアム・ブレイスウェル、ヤスミン・ナグディとリース・クラークが参加。『マノン』や『ロミオとジュリエット』といったマクミラン作品でドラマティック・バレエの真価を伝えて圧巻。
シュツットガルト・バレエのエリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲルは、『椿姫』や『うたかたの恋』で20世紀のドラマティック・バレエの系譜を改めて印象づけた。
最終日ガラの第4部は、お馴染みの「ファニー・ガラ」。舞台も客席も一つになって、バレエの饗宴を堪能し、喝采はいつ果てるともしれなかった。
[公演DATA]
全幕特別プロ『ラ・バヤデール』:7月27、28日 Aプロ:7月31日~8月4日
Bプロ:8月7日〜10日
ガラ:8月12日
会場:東京文化会館
指揮:ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:菊池洋子、瀧澤志野
チェロ:長明康郎
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『SWAN―白鳥―』の続編として2014年から描かれた『SWAN ドイツ編』前半を収録。モスクワで『アグリー・ダック』を成功させた真澄とレオンは、シュツットガルトに戻り、ハンブルク・バレエ週間で上演される「オテロ」のオーディションに参加することに。ノイマイヤーを敬愛するレオンと、その才気あふれる振付に衝撃を受けた真澄は、合格を誓うが、待っていたのは予想もしない結果だった――!?
●描きおろし番外編「セルゲイエフ17歳のボリショイ秘話」や「レオンの初恋物語」、新規着色ページ、イラストも収録の贅沢な一冊。ファン必携の愛蔵版です!
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