Noism Company Niigata 創立20周年記念公演 『Amomentof』~闘いの果て、冴え渡る独自のスタイル~

カルチャー|2024.9.9
文=渡辺真弓(オン・ステージ新聞編集長、舞踊評論家) 撮影=松橋晶子

金森穣の新作をダブルビルで上演!

 新潟市のりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館の専属舞踊団Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)が、4月に創立20周年を迎え、芸術総監督・金森穣による新作のダブルビルを上演した。6月28日〜30日の本拠地での初演から1か月後、7月の埼玉公演を鑑賞した。
 今回の2作に共通するのは、まず音楽から着想され、選曲が生きたこと。そして金森のミューズ、井関佐和子を芯に、結成以来のカンパニーの歴史が立ち現れるような瞬間を体験させてもらえたことだった。

『Amomentof』と『セレネ、あるいは黄昏の歌』

20年の闘いは「一瞬」。タイトルに想い込め

 最初の作品のタイトル『Amomentof』は、「一瞬の」という意味の造語で、ここに20年間の闘いが一瞬であったという金森の実感が込められている。
 音楽は、マーラーの交響曲第3番第6楽章「愛が私に語りかけるもの」。この曲は、金森の恩師ベジャールや現代の巨匠ノイマイヤーも舞踊化しているが、 金森独自のアプローチはやはり鮮烈だった。

『Amomentof』より

井関と金森の至高のデュエット

 舞台は、バーのある稽古場に始まり、井関が、夢想的な音楽に引き込まれるように、自分の過去を振り返りながら、様々な出会いと別れの時を再現、最後に再び稽古場に戻るというもの。なかでも、井関の前に、閃光の如く現れた金森とのデュエットは別格。公私にわたり共に歩んできた二人の舞踊人生が重なり、感慨深いものがあった。

『Amomentof』より

 背景にこれまでの金森作品のポスターと思しき画像が並び、ダンサーたちが多様な衣装で勢ぞろいした終盤は、過去の名作の数々が脳裏をよぎり、私たち観客にとっても胸に迫る瞬間であった。

『Amomentof』より

『セレネ、あるいは黄昏の歌』は黒部で初演

 後半の『セレネ、あるいは黄昏の歌』は、黒部シアターで上演するために構想された作品で、昨年春に第1作『セレネ、あるいはマレビトの歌』を発表し、シリーズ第2弾の本作も5月に黒部で初演されている。
 音楽は、マックス・リヒター編曲によるヴィヴァルディの『四季』。近年では、クリスタル・パイトがパリ・オペラ座バレエ団のために創作した『The Seasons’Canon(ザ・シーズンズ・カノン)』が知られている。

『セレネ、あるいは黄昏の歌』より

「循環」をテーマに、精度の高い群舞も際立つ

 作品のテーマは「循環」。ここでは井関が月の女神に扮し、祭司として儀式を司るかのように君臨する。1時間弱にわたる四季の移ろいの中で、井関は群舞を静観しつつ、常に中心的存在として、前作にも増して、強烈な存在感を呈していた。起死回生のシーンも印象的。群舞は、ネオクラシックに近い動きで、驚くほど精度が高く、どの場面でも隙のないアンサンブルを展開。金森とカンパニーの20年間の積み重ねにずっしりとした手ごたえを感じさせた。

『セレネ、あるいは黄昏の歌』より

新潟で育まれた独自のスタイルに今後も期待

 金森の振付作品を初めて見たのは、2004年パリの日本文化会館で上演された『意識の壁』だっただろうか。会場には、金森の恩師であるイリ・キリアンの姿もあった。実験的な作品で、まだ自分のスタイルを模索しているようだったが、この冒険心から何が生まれてくるのだろうと、ダイヤの原石に未知のきらめきを見出したのを思い出す。
 それから20年。様々な闘いを経て、独自のスタイルを確立した金森のダンスは、ここからさらにどこに向かうのか。今後の活動からも目が離せないと思わせた記念公演だった。
(7月26日〜28日 彩の国さいたま芸術劇場)

『Amomentof』と『セレネ、あるいは黄昏の歌』

おすすめの本

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Noism創立10周年を記念し2014年に刊行された本書は、現在、国際活動部門の芸術監督を務める井関佐和子の半生をカンパニー結成当初から追い続ける篠山紀信の写真とともに振り返るフォトエッセイ。欧州へのバレエ留学や金森との出逢い、葛藤など一人の女性として共感できるエッセイをはじめ、金森とのロング対談、Noism公演履歴一覧なども収録。

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おすすめの本

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有吉京子 著(平凡社刊)
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