ピーター・ダレル振付『ホフマン物語』再演。オペラ・ファンも注目
新国立劇場バレエ団が、ピーター・ダレル振付・台本の『ホフマン物語』を6年ぶりに再演した。昨年、オッフェンバック作曲のオペラ『ホフマン物語』が上演されたので、オペラ・ファンも多数参集したのではなかろうか。同劇場ならではの好企画と言えよう。
初演は、1972年スコティッシュ・バレエ。新国立劇場のレパートリーに入ったのは、大原永子が舞踊芸術監督を務めた2015年で、2018年に再演。今回ステージングのために帰国した大原元監督が、初日カーテンコールに登場すると、客席から盛大な拍手が起こり、皆で功績を讃えた。
バレエは、プロローグ:ラ・ステラに始まり、第1幕:オリンピア、第2幕:アントニア、第3幕:ジュリエッタと3つの物語が進み、エピローグ:ラ・ステラで幕を閉じる。現行のオペラ上演と同じ順序で展開するが、最後は純愛に破れたホフマンの挫折で幕を閉じる。ここが、ホフマンの親友ニクラウスがミューズとなって現れ、失意のホフマンを再生に導くオペラの結末と大きく異なる点である。
音楽は、ジョン・ランチベリーによる編曲で、有名な「ホフマンの舟歌」はじめオペラ『ホフマン物語』からの名曲がちりばめられ、ポール・マーフィー指揮東京交響楽団の好演により、音楽的にも充足度が高かった。
第3幕は井澤駿、木村優里
男性が主役のバレエ。プリンシパルが火花を散らす!
初日は、表題役のホフマン役に定評ある福岡雄大が、恋に破れ、打ちひしがれた男の無力感を陰影深く表現したのをはじめ、適材適所の配役が光る。男性が主役のバレエはそう多くないが、ここでは、ホフマンの恋を阻む悪役4役(リンドルフ/スパランザーニ/ドクターミラクル/ダーパテュート)を演じた渡邊峻郁も変幻自在の怪演を披露し、男性プリンシパル同士の火花を散らす競演が見ものとなった。
第2幕より、小野絢子、渡邊峻郁
人形オリンピア(池田理沙子)は、オペラのコロラトゥーラをポワントで、オペラでは歌手のアントニア(小野絢子)は踊りの名手に、高級娼婦のジュリエッタ(柴山紗帆)は、『シェヘラザード』さながらのサロンで妖艶にホフマンを誘惑と、バレエならではの創意工夫が満載である。
ホフマンを取り巻く、眩いばかりの女性陣にため息
とりわけ第2幕では、純真さゆえに、アントニアがホフマンの奏でるピアノに魅入られて命を落とす悲劇が際立った。幻影のシーンでは、オーロラに覆われた舞台で、『ライモンダ』か『黒鳥』かと思わせるパ・ド・ドゥが高難度のリフトを交えて披露され、小野&福岡の名カップルの至芸を見た思いがした。ラ・ステラ役で木村優里が顔を見せたのも贅沢だった。
このバレエは、同じく英国の巨匠マクミランの『マノン』(1974年初演)に先立って作られたが、第1幕で、ホフマンの友人(速水渉悟、森本亮介、木下嘉人)で構成されるトリオは、『マノン』第2幕の3人の紳士の踊りを想起させ興味深い。
ともに初役デビューの奥村康祐と奥田花純
4回目最終日の公演では、奥村康祐がホフマンに初挑戦、運命に翻弄され身を破滅させていく様を飄々と描いたのが新鮮に映った。この日は、オリンピアを奥田花純が可憐に演じたのをはじめ、アントニアに小野絢子、ジュリエッタに米沢唯と看板スターが二人揃うという絶妙の組み合わせが実現し、ファンの胸をときめかせた。(2月23日〜25日 新国立劇場オペラパレス)
2024/2025シーズン、待望のラインアップ発表!
『ホフマン物語』の余韻冷めやらぬ2月28日、来シーズンのラインアップが発表された。
テーマは「冒険心を持って」。10月開幕の『眠れる森の美女』を皮切りに、年末年始の『くるみ割り人形』、2025年4月の『ジゼル』、6月の『不思議の国のアリス』とお馴染みの全幕バレエを中心に据え、新制作の小品をちりばめて、バレエの多彩な魅力を広めようというのがねらいだ。
2025年3月の「バレエ・コフレ(宝石箱)」のトリプル・ビルでは、華麗なテクニックの花束であるランダー振付『エチュード』とコロナ禍で延期となっていたフォーサイスの『精確さによる目眩くスリル』が新国立劇場初登場。現在のバレエ団のメンバーの実力を余すところなく発揮できる演目で、今から上演が待ち遠しい。フォーキンの名作『火の鳥』も2013年以来、久々に再演されるのが注目される。
「Young NBJ GALA 2025」では、団員の福田圭吾による1幕ものの新作を発表。今年7月の「こどものためのバレエ劇場2024」『人魚姫』で、貝川鐵夫の演出・振付作品が世界初演されるのと並び、バレエ団から振付家を育成するプロジェクトがこのように実を結び始めたのは大きな成果。
英国ロイヤル・オペラハウスで『ジゼル』海外公演決定!
なお、最大の「冒険心」と言えるのは、2025年7月に予定されている『ジゼル』ロンドン公演。海外には過去2回招聘されているものの、自主公演は初めて。これについて吉田都芸術監督は次のように期待のほどを語る。
『ジゼル』より、群舞 撮影:鹿摩隆司
「木下グループとケヴィン・オヘア監督のロイヤル・オペラハウスの皆様の支援のおかげです。4、5年前から構想してきましたが、ダンサーたちの変化を見て、世界中に知ってほしいという気持ちがありました。『ジゼル』は私自身の演出作品なのでプレッシャーがありますが、日本人ならではの繊細な表現を見てもらえたら。特にコール・ド・バレエは世界に誇れるレベルだと思う」
ビッグ・ニュースに沸くバレエ団。一段と大きな飛躍が期待できる1年となりそうだ。
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