『赤と黒』ドロテ・ジルベール、ユーゴ・マルシャン

〈ル・グラン・ガラ〉パリ・オペラ座エトワールのドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオの贈り物

カルチャー|2023.8.30
文=渡辺真弓(オン・ステージ新聞編集長、舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師) 舞台写真 撮影=瀬戸秀美

風格と円熟の極みに酔う、A・Bプログラム

 このガラ公演は、2018年と2019年に続くもので、『トリスタンとイゾルデ』や『マリア・カラス〜踊る歌声』など音楽との関係が深い演目をメインに据えた企画は、数あるガラ公演の中でも、パリ・オペラ座バレエのエトワールたちの未知の魅力を引き出したものとして異彩を放っていた。
 今回もその傾向は変わらない。ステージマネージャーは、かつての名エトワール、エルヴェ・モロー、出演は、オペラ座のエトワールを主軸にしたダンサーたちに、シュツットガルト・バレエ団プリンシパルのフリーデマン・フォーゲルを加えた12名の編成である。

『ジュエルズ』より“ダイヤモンド” リュドミラ・パリエロ、マチュー・ガニオ

名匠ピエール・ラコットを偲び、『赤と黒』を日本初演

 まずAプロは11 曲。座長の一人マチュー・ガニオが、ウヴェ・ショルツの『ソナタ』をレオノール・ボラック(ピアノ:久山亮子/チェロ:水野優也 )と、ジョージ・バランシンの『ジュエルズ』より“ダイヤモンド”をリュドミラ・パリエロと共演し、風格を見せたのが収穫である。片やドロテ・ジルベールは、ユーゴ・マルシャンとアンジュラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』と、4月に亡くなったピエール・ラコットの最後の大作『赤と黒』からの抜粋を披露し、円熟の極みを印象付けた。
 ほかにジョン・クランコの『オネーギン』やローラン・プティの『カルメン』、ハンス・ファン・マーネンの『3つのグノシエンヌ』(ピアノ:久山亮子)など、このガラならではの選曲が楽しめた。
 若手に目を向けると、スジェの新進、ビアンカ・スクダモアとトマ・ドキールが、『海賊』と『サタネラ』で、クララ・ムーセーニュとニコラ・ディ・ヴィコが、『ドン・キホーテ』で、それぞれ古典バレエの華やかな技巧の競演に酔わせた。

『赤と黒』 ドロテ・ジルベール、ユーゴ・マルシャン
『サタネラ』 ビアンカ・スクダモア、トマ・ドキール
『ドン・キホーテ』 クララ・ムーセーニュ、ニコラ・ディ・ヴィコ

クランコ、マクミランからノイマイヤーへ。ドラマティック・バレエの名作が光る

 Bプロは、同じく11曲で、こちらは、お隣り英国ロイヤル・バレエの巨匠ケネス・マクミランの作品をメインに据えたのが新鮮に映る。
 『マノン』から2曲では、ジルベールとマルシャンが出会いのパ・ド・ドゥをロマンティックに踊れば、パリエロとフォーゲルが寝室のパ・ド・ドゥを官能的にと、2組の競演が見どころとなった。抽象バレエの『コンチェルト』は、スクダモアとドキールが伸びやかなラインを生かして洗練された仕上がりに。
 そして、最後を飾ったのが、ジルベールとマルシャンの『うたかたの恋 マイヤーリング』。最近レパートリーに入った作品だが、狂気と絶望が交錯する異色作を濃密に演じて、両者の新生面を見た思いがした。
 このプログラムでは、クランコからジョン・ノイマイヤーへと連なるドラマティック・バレエの系譜を辿ることも忘れていない。クランコの『オネーギン』より手紙のパ・ド・ドゥは、アマンディーヌ・アルビッソンとガニオが渾身のデュエットを見せ、第1部の掉尾を飾るにふさわしかった。アルビッソンは、ノイマイヤーの『椿姫』より出会いのパ・ド・ドゥでべザールと組み、演技派の持ち味をアピールした。

『オネーギン』より手紙のパ・ド・ドゥ アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ
『悪夢』 レオノール・ボラック、フリーデマン・フォーゲル

 ほかに、ジル・イゾアール振付『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』が、パリエロとガニオのペアで流麗に。マルコ・ゲッケの『悪夢』は、ボラックとフォーゲルが、現代人の危機感をリアルに演じて強烈なインパクトを与えた。
 現在のパリ・オペラ座バレエのエッセンスをちりばめたような〈ル・グラン・ガラ〉。次回は、どのような〈贈り物〉を届けてくれることか、今から楽しみである。
(Aプロ:7月31日、Bプロ:8月2日 東京文化会館)

『うたかたの恋 マイヤーリング』 ドロテ・ジルベール、ユーゴ・マルシャン

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