「100年の時を越えて 展覧会金子みすゞの詩」 松屋銀座8階イベントスクエア

カルチャー|2023.5.25

 「大漁」「明るい方へ」「私と小鳥と鈴と」「露」などの詩で知られる童謡詩人・金子みすゞは今年、生誕120年を迎えた。そして、はじめて投稿した作品が『童謡』『婦人俱楽部』『婦人画報』『金の星』の4誌に一斉に掲載されるという鮮烈なデビューからちょうど100年。現在、その記念展が銀座松屋で開催されている。

若き天才童謡詩人の誕生

 金子みすゞはペンネームで、本名は金子テル。1903年に山口県大津郡仙崎村(現在の長門市仙崎)で生まれた。少女時代から文才を発揮していたテルは20歳で童謡を書き始め、大正時代に創刊された童謡雑誌への投稿で一躍注目され、「若き童謡詩人の中の巨星」と称賛された。
 本展では、みすゞの作品が初めて掲載された童謡雑誌の実物や、今回初展示となる童謡同人誌『曼殊沙華』の掲載面も並べられている。
 また、みすゞが当時の本や雑誌から参考となる作品を抜き書きしていた手帳『琅玕集』(ろうかんしゅう:「琅玕」は翡翠や宝石のこと)も展示されていて、当時みすゞが詩作にかけていた情熱が偲ばれる。

大正時代を彩った童話・童謡雑誌(壁面)と、みすゞが残した手帳『琅玕集』(ろうかんしゅう)、みすゞが愛読し参考にしていた当時の雑誌など。

3冊の遺稿手帳の発見と、詩の世界の広がり

 童謡作家として同時代の読者や投稿仲間の憧れの星となっていたみすゞは、結婚して一人娘をもうけるが、26歳の若さで世を去り、いつしかその存在も人々の記憶から消え去っていた。
 しかし、1966年に児童文学者を志していた大学生だった矢崎節夫氏が、『日本童謡集』(与田準一編、岩波文庫)の中で、みすゞの詩「大漁」を目に留めた。そして矢崎氏の丹念な捜索の末、みすゞの実弟である上山雅輔(かみやまがすけ:本名は上山正祐)氏にたどり着き、上山氏が保管していた3冊の手描きの遺稿集が見つかったのである。その遺稿集に記されていた約60篇の詩が、矢崎氏の手によって編まれ、『金子みすゞ全集』三巻(JULA出版局)に結実したのであった。
 本展では、3冊の手帳に書かれたみすゞの直筆の手書き文字のままパネル展示されており、一つ一つの作品を鑑賞しながら詩の世界を味わうことができる。
 そのほかに、会場ではこれまでみすゞの詩の世界を描いた絵本の原画など約100点が紹介されている。
今も多くの人々に読み継がれ、愛され続けている金子みすゞの詩に向き合い、作品が生まれた背景を知ることが出来る展覧会は5月29日(月)まで。

金子みすゞが残した、3冊の遺稿手帳(実物)
みすゞの自筆の詩のパネルの展示

 そして生誕120年を記念した、別冊太陽「新版 金子みすゞ 生誕一二〇年」(矢崎節夫監修、平凡社)が同展物販コーナーと全国書店で発売中だ。
 これは2003年刊行の「金子みすゞ 生誕一〇〇年」を新版としてよみがえらせたもので、金子みすゞの詩の世界を「人と人」「人と自然」「人と宇宙」という3章に分けて代表的な作品を美しいビジュアルイメージと共に紹介している。
 また、26年という短い生涯を送った金子みすゞの評伝や、ひとり娘の上村ふさえさんへのインタビュー、みすゞの貴重な手帖『琅玕集』と『南京玉』の自筆ページ、そしてみすゞの遺稿手帳が発見されてからの軌跡を追った記録などを収録した愛蔵版となっている。ぜひ、この機会に手に取っていただきたい。

展覧会概要
「100年の時を越えて 展覧会 金子みすゞの詩(うた)」 松屋銀座8階イベントスクエア

会  期:2023年5月24日(水)~29日(月)
開場時間:10:00-20:00 ※5月28日(日)は19:30、最終日は17:00閉場。入場は閉場の30分前まで
※混雑の際は、お待ちいただく場合や整理券を配布する場合があります。
入場料:一般1,200円、高校生1,000円、小中学生600円
問合せ:MATSUYA GINZA 03-3567-1211 www.matsuya.com

別冊太陽「新版 金子みすゞ」
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