柚木沙弥郎自選作品集出版記念

「柚木沙弥郎 旅の歓び、旅の色彩」展
光原社(盛岡市)

アート|2024.10.26
別冊太陽編集部

 今年12月に創設100年を迎える光原社(岩手県盛岡市)で、「柚木沙弥郎 旅の歓び、旅の色彩」展が開催されている。
 宮沢賢治と学友だった及川四郎により大正13(1924)年に創業した光原社は、賢治の『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』を発行する出版社として誕生。光原社という店名も賢治によって命名された。昭和10年代から民芸運動の提唱者・柳宗悦らと知遇を得たことにより、全国各地の民芸品を取り扱うようになった。染色家・柚木沙弥郎が長年にわたり懇意にしていた東北を代表する工芸店であり、たびたび展示会を開いていた思い出深い場所だ。

 本展で展示されているのは、柚木自らが生前に選び、編集に携わった最後の自選作品集『柚木沙弥郎自選作品集 旅の歓び、旅の色彩』(平凡社)に収録された、旅にまつわる作品の原画15点。ヨーロッパ、インド、日本各地を巡った柚木が、その感動と歓びを色彩豊かに表現した作品群となっている。

 これらの作品の多くは、これまで発表されることなく柚木の手元で大切に保管されてきた。それは、旅で感じた歓びを自らのために描いた私的な作品だったためだ。しかし、コロナ禍で外出自粛が続く社会の状況を案じた柚木は、人々に旅の喜びを感じてほしいと願い、本書の刊行という形での公開を決意した。型染や水彩など、その時々の画法で自由な筆致で描かれた作品からは、柚木の旅への思いと生き生きとした歓びが溢れ出ている。

 また、柚木にとって初めての海外旅行となった1967年のヨーロッパの旅の記録として、3冊のアルバムも展示されている。飛行機や汽車のチケット、美術館のパンフレットやレシートなど、あらゆる思い出の品々を持ち帰り、帰国後に現像した写真とともに見事なレイアウトでまとめあげられた貴重なものだ。

 柚木が旅の記憶を色彩豊かに描き留めた作品の数々は、見る者の心に新鮮な感動と旅への憧れを呼び起こすに違いない。この秋、光原社で柚木沙弥郎の旅の歓びに触れてみてはいかがだろうか。

展覧会情報

柚木沙弥郎自選作品集出版記念
「柚木沙弥郎 旅の歓び、旅の色彩」展

会期:10月17日(木) ~ 11月4日(月・祝)
会場:光原社本店内いーはとーぶ館
開館時間:10:00 ~18:00  (土曜のみ ~17:30)
観覧料:無料

関連書籍

柚木沙弥郎自選作品集 旅の歓び、旅の色彩

柚木沙弥郎の最後の自選作品集。ヨーロッパ、インド、日本での旅の感動を、絵画作品と手製アルバム帖で表現。創作の源泉に迫る。
定価6,820円(10%税込)
詳細はこちら

RELATED ARTICLE