滋賀県立美術館開館40周年記念

「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」

アート|2024.10.16
エディター・竹内清乃

百寿を記念して故郷滋賀で10年ぶりに開催される個展

 紬織の人間国宝である染織家・志村ふくみは1924年(大正13年)に滋賀県近江八幡に生まれ、今年9月30日に100歳を迎えた。深い思索と天性の色彩感覚から生み出される紬織の着物は、さまざまな分野の識者から注目され、高い評価を受けてきた。
 本展は、志村ふくみ作品の収蔵で国内屈指の規模を誇る滋賀県立美術館において約10年ぶりとなる個展であり、代表的な80件以上の紬織作品や作家ゆかりの品々が集められ、その初期から近年までの歩みをたどることができる。
 見どころとなるのは、紬織作品とともに随筆家としての志村ふくみの文章が展示され、作品の世界により深く心を通わせるようなアプローチになっているところである。まさに展覧会のタイトルにある「色と言葉のつむぎおり」の世界へと誘われる構成である。
 展示室に入ると、本展に寄せた志村ふくみ自筆のメッセージの色紙が飾られていた。

 「私にとって琵琶湖は心の象徴です。
 とくに夕景の湖は作品『湖上夕照』に表現したような私の心の永遠の姿です
                       令和六年吉日 志村ふくみ」

志村ふくみの自筆のメッセージが出迎えてくれる
滋賀県立美術館内の展示風景

「原風景」というべき琵琶湖がテーマの作品群

 志村ふくみの随筆にはたびたび、琵琶湖への深い思いが綴られている。
「琵琶湖は私にとって単なる風景ではない。
肉親や愛する人などの終焉の地であり、鎮魂の思いのする湖、いわば私の原風景というべきところである」(『伝書 しむらのいろ』2013年 求龍堂より)
 琵琶湖畔の入日に遭遇した時の、強い印象と感動を作品に込めたのが、「湖上夕照」である。濃紺地に朱や茶、金茶などの色糸が織りなす表現の壮大さに圧倒される。

志村ふくみ作《湖上夕照》 1979年 滋賀県立美術館蔵

 今回、特別に制作された色糸のインスタレーションにおいても、琵琶湖のイメージが投影されている。天井の六角形の装置から無数の色糸のグラデーションが虹のような光となって降り注いでいる下方の盤面は、琵琶湖の深い藍色の湖面を表している。色糸はすべて植物染料によるものであり、万物の生命力を宿した光線として輝いている。
 本展の結びとなる「第4章 近江 百年の原風景」の展示室には、近江、琵琶湖がテーマの作品群が一堂に会している。作品と対面していると、志村ふくみが故郷に寄せるまなざしと相対しているような気がしてくる。

本展の見どころでもある色糸のインスタレーション作品

 また、展覧会にあわせて、さまざまなイベントやワークショップも開かれ、志村ふくみと長女の志村洋子氏が主宰する都機(つき)工房の協力により、草木染めの実体験ができる。
 予定の詳細については下の欄を参照のこと。そのほかに、着物を着用して来場された方には都機工房での作品制作の際に織機に張っていた経糸の残り糸のプレゼントがある(なくなり次第終了)。
 ミュージアムショップにも展覧会関連グッズが取り揃えられているので、作品をイメージした小物やポストカードなどをお土産にしてみては。
 会期中は前期と後期に分かれ、23点の展示替えが行われる。繊細な素材の作品や比較的展示されることのない作品も含まれており、この機会に心ゆくまで鑑賞したい。

展覧会概要

滋賀県立美術館開館40周年記念
「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」
滋賀県立美術館

会期:【前期】2024年10月8日 (火)〜10月27日(日)
   【後期】2024年10月29日(火)〜11月17日(日)
   ※会期中に展示替えあり
開館時間:9:30-17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(ただし祝休日の場合には開館し、翌火曜日休館)
観覧料:一般1,200円、高校生・大学生800円、小・中学生600円、未就学児は無料
    身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳、療育手帳をお持ちの方は無料
問合せ:電話077-543-2111
公式ホームページ:https://www.shigamuseum.jp/

志村ふくみ《光の湖》 1991年 京都国立近代美術館蔵

関連イベント

◆草木染め体験ワークショップ(要事前申込/抽選/参加費2,000円)
高校生以上を対象にした、志村ふくみ作品の色を生み出す草木染め体験。今回は紫根でショールを染める。染めたショールは持ち帰りOK。
日時:11月10日(日)13:00〜16:00
協力:都機工房
場所:ワークショップルーム
定員:20名
◆たいけんびじゅつかん(要事前申込/抽選/参加費500円 保護者のみ要観覧チケット)
小・中学生とその保護者を対象とした、展覧会の鑑賞と創作体験がセットになったワークショップを開催。都機工房のスタッフとともにドングリを使った草木染めを体験。
日時:10月26日(土)13:00〜15:30
協力:都機工房
場所:ワークショップルーム
定員:20名
◆学芸員によるギャラリートーク(事前申込不要/当日先着/要観覧チケット)
本展を学芸員の解説付きで鑑賞する。
日時:11月4日(月・振休)11:00〜11:45、14:00〜14:45
定員:各回20名程度

関連書籍

別冊太陽 日本のこころ316 「志村ふくみ 100歳記念 色なき色にすべての色がある」
監修=志村昌司
定価:2,750円(本体2,500円+税)
A4変型判 160ページ

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