新春のおススメ展覧会・1 西洋美術の巨匠たち

アート|2024.1.12
坂本裕子(アートライター)

現在開催中の展覧会から、注目ラインナップをピックアップ

第1弾は西洋美術篇。
まもなく終了するモネ展、ゴッホ展をはじめ、西洋近代美術の代表的な作家の良品で、2024年をはじめてみては?

「モネ 連作の情景」 上野の森美術館

巨匠モネが「連作」に至るまで

連作は晩年、みずからが整えたジヴェルニーの庭の花々や池の睡蓮に昇華する

連日入館の列をなし、相変わらずの人気を伝える「モネ 連作の情景」。まもなく終了で、予約も混みあっているとも思われるが、60点以上がすべてモネの作品という、贅沢な体験ができる展覧会でもあるので、紹介しておこう。
クロード・モネ(1840–1926)は、たぐいまれな色彩感覚で移ろいゆく光と空気を画布にとどめることを追求した印象派の巨匠。その作品は、みる者のみならず、後世の画家はもちろん、多くの芸術家を魅了して、現代アートにもその影響を見ることができる。彼の追求は、同じ場所、同じテーマを、異なる天候、異なる時間、異なる季節に描く「連作」という制作スタイルを生み出した。その画業は「連作」を無視して語ることはできない。本展は改めてこの「連作」に焦点をあて、印象派の画風以前の作品から、「連作」の制作に至る過程を追う。代表的な〈睡蓮〉のみならず、セーヌ川から見た風景やエトルタの奇景などが繰り返し描かれ、そこから〈積みわら〉に始まる意識的な連作の創作を、ロンドンで最も多く描かれた〈ウォータールー橋〉のシリーズなど国内外40館以上から集められた代表作で紹介する。晩年のジヴェルニーでの連作までに、実に多彩なモティーフにおいて繰り返し、あるいは連作が試みられたことを改めて感じられるだろう。それは、さまざまな土地、季節、時間をモネの眼となって巡っているような、豊かな時間を提供する。
大作《昼食》や《ルーヴル河岸》など、初来日の初期作品も注目だ。
展覧会グッズも好評で、ショップに入るのに並ぶこともあるとか。モネの壮大な時空の軌跡を体感するとともに、お土産選びの時間のゆとりも持って訪ねてみて。

1章 印象派以前のモネ 展示風景から
中央が初来日の大作《昼食》。まだ輪郭もくっきりとした描写だが、窓から差し込む光の捉え方に注目したい
2章 印象派の画家、モネ 展示風景から
印象派と呼ばれるようになったモネの作品からは、水辺の風景には湿気を、道の風景には季節の風を、雪景色にはその冷気を感じられるだろう
3章 テーマへの集中 展示風景から
光と空気の移り変わりをとらえたかったモネは、同じテーマの作品を描くようになっていく。「連作」の萌芽を感じさせる作品群
4章 連作の画家、モネ 展示風景から
「連作」の始まりとされる〈積みわら〉と〈クルーズ渓谷〉のシリーズ
4章 連作の画家、モネ 展示風景から
ロンドンの〈ウォータールー橋〉のシリーズ
5章 「睡蓮」とジヴェルニーの庭 展示風景から
晩年の、そしてモネを代表する〈睡蓮〉は、ヴァリエーションの豊かさに注目

展覧会概要

モネ 連作の情景 

会場:上野の森美術館
会期:2023年10月20日(金)~2024年1月28日(日)
時間:9:00–18:00(金土は20:00まで 入館は閉館の30分前まで)
   ※開館時間が延長されました!
料金:一般2,800円、大学・専門学校・高校生1,600円、中学・小学生1,000円(土日祝日は200円増)
未就学児は無料、障がい者手帳持参者と介護者(1名)は半額(要呈示)
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:www.monet2023.jp

「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」 SOMPO美術館

静物画の変遷に追う、ゴッホのもうひとつの貌

SOMPO美術館外壁のあしらい

日本でも大人気のフィンセント・ファン・ゴッホ(1853–1890)。うねるような筆致でアルルやオーベール=シュル=オワーズを描いた風景画が知られるが、同時に、10年ほどの短くも精力的な画業を通じて描き続けたのが静物画だ。作品が売れず、モデルを雇えなかった事情もあろうが、それだけでは語れない魅力を持ち、オランダ時代から秀作が多く残されている。
この静物画に注目した展覧会がSOMPO美術館で開催中だ。2020年に予定していたが、コロナ禍により、3年の時を経て実現した。同館では20年ぶりのゴッホ展でもあり、待望の開催となる。
17世紀から20世紀初頭のヨーロッパにおける静物画の流れに改めてゴッホの作品を位置づけ、同館の《ひまわり》を含めた25点の作品を通じて、彼が西洋美術の歴史や先達の画家から何を学び取り、自身の作品に反映したのか、そして彼の作品が後進にどんな影響を与えたのかを見ていく。
そこには、ゴッホが真摯に伝統的な主題としての静物画に向かい、自身の眼で学ぶべき画家、作品を見いだし、それらから要素を取り込んで、独自の表現へ昇華させていく姿が浮かび上がる。特にパリで印象派を含む同時代の作品に触れ、アルルで「ゴッホ」になっていく変容は、大輪の花が開いていくようで、まさに《アイリス》と《ひまわり》に象徴される。その影響力は、次世代の画家たちの作品にみいだせるだろう。
国内外から集められたエドゥアール・マネやカミーユ・ピサロ、ピエール=オーギュスト・ルノワールに、ポール・ゴーギャンらをはじめとする静物画の秀作揃いも見どころだ。
西洋絵画の伝統と革新をつなぐゴッホの静物画に、新たな“魅力のひみつ”を見つけられるかもしれない。

1 伝統―17世紀から19世紀 展示風景から
オランダで隆盛した「ヴァニタス(無常観)」を含蓄する静物画の流れからゴッホ作品を見る
1 伝統―17世紀から19世紀 展示風景から
テーブルに置かれた物や魚、果物をテーマにした作品。オランダ時代のゴッホの静物画は、画面は暗いがとてもよいものが多い。特に《鳥の巣》はおすすめ
左:フィンセント・ファン・ゴッホ 《野牡丹と薔薇のある静物》 1886–87 クレラー=ミュラー美術館蔵
右:フィンセント・ファン・ゴッホ 《青い花瓶にいけた花》 1887 クレラー=ミュラー美術館蔵
(展示から)
2 花の静物画―「ひまわり」をめぐって 展示風景から
左:アドルフ=ジョゼフ・モンティセリ 《花瓶の花》 1875頃 クレラー=ミュラー美術館蔵
右:エドゥアール・マネ 《白いシャクヤクとその他の花のある静物》 1880頃 ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館蔵
日本ではあまり知られていないが、モンティセリはゴッホが高く評価し、敬愛した画家のひとり。絵具の質感を感じさせる盛り上がるような筆触はのちのゴッホに大きな影響を与えたと思われる
2 花の静物画―「ひまわり」をめぐって 展示風景から
ゴッホの花を描いた作品たち
2 花の静物画―「ひまわり」をめぐって 展示風景から
左:フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》 1890 ファン・ゴッホ美術館蔵
右:フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888 SOMPO美術館蔵
3革新―19世紀から20世紀 展示風景から
左:フィンセント・ファン・ゴッホ 《靴》 1886 ファン・ゴッホ美術館蔵
右:フィンセント・ファン・ゴッホ 《三冊の小説》 1887 ファン・ゴッホ美術館蔵
3 革新―19世紀から20世紀 展示風景から
アルルで制作された静物画はよく知られた作品だろう。ポール・セザンヌ、ポール・ゴーギャンらの秀作も嬉しい。

展覧会概要

ゴッホと静物画 伝統から革新へ

会場:SOMPO美術館
会期:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
時間:10:00–18:00(1月18日(木)~21日(日)は20:00まで)※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日
料金:一般1,800円、大学生1,100円、高校生以下無料 ※日時指定予約制
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https:/gogh2023.exhn.jp/

「マリー・ローランサン ―時代をうつす眼」 アーティゾン美術館

たくましく、しなやかに。「女性」として創作に生きた生涯

会場入り口

19世紀末まで女性には閉ざされていたさまざまな職業の門戸が開かれていった啓蒙時代を経て、芸術の分野でも女性の活躍が見られるようになる20世紀前半、画家になることをめざしたマリー・ローランサン(1883–1956)がいた。
「洗濯船」と呼ばれたアトリエ兼アパルトマンに集っていたジョルジュ・ブラック、パブロ・ピカソやギョーム・アポリネールら若き前衛芸術家たちと交流したローランサンは、キュビスムの画家として紹介されることが多いが、特徴となる淡いパステルカラーの浮遊するような画風は、「前衛」や「イズム(流派)」などの美術史の言説には収まりきらない独自性を持つ。同時に、絵画にとどまらず、絵本の挿絵や自作詩、バレエの舞台装置に衣装デザインなど、その活動は多岐に及ぶ。
そうした複数のテーマを切り口に、関連する他の画家たちの作品との比較から、ローランサンの独自性を追う展覧会がアーティゾン美術館で開催されている。同館のコレクションに、国内外の美術館からローランサンの作品約40点、資料25点を含んだ約90点が並ぶ。
短く切りそろえた髪、直線的なローウェストの衣装に象徴されるモダンガール“ギャルソンヌ”が登場した第一次世界大戦後のパリ。彼女らは新しく自由な気風のもと、淡い色彩でファッショナブルに描かれるローランサンの肖像画に熱狂した。
第二次世界大戦中もほとんどパリに暮らし、72歳で亡くなるまで制作を続けたローランサンは、時代を見つめ、前衛に触れながらも、それらと一定の距離を持ち、独自性を貫いた。そのやわらかく軽やかな作品の奥に、激動の時代に女として、画家として生きる困難や、それに負けない強い意志を読みとれるかもしれない。

序章 マリー・ローランサンと出会う 展示風景から
自画像との対話からスタート
第1章 マリー・ローランサンとキュビスム 展示風景から
初期の作品
第1章 マリー・ローランサンとキュビスム 展示風景から
ピカソやブラックら、キュビスムの画家たちの作品が並ぶ
第2章 マリー・ローランサンと文学 展示風景から
『椿姫』の挿絵原画のコーナーは、さながら物語のなかに入ったような気持になる
第3章 マリー・ローランサンと人物画 展示風景から
アメデオ・モディリアーニや藤田嗣治ら、エコール・ド・パリの画家たちとローランサンの作品を比較する
第4章 マリー・ローランサンと舞台芸術 展示風景から
バレエの衣装や舞台装置のデザインは、とても相性がよいように思える
第5章 マリー・ローランサンと静物画 展示風景から
花を描いた作品から家具の意匠まで
終章 マリー・ローランサンと芸術 展示風景から
晩年の大作たち

展覧会概要

マリー・ローランサン ―時代をうつす眼

会場:アーティゾン美術館
会期:2023年12月9日(土)~2024年3月3日(日)
時間:10:00-18:00(2/23を除く金曜日は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(2/12は開館)、2/13
料金:日時指定予約制 ウェブ予約:1,800円/窓口:2,000円、
   学生は無料(高校生以上は要ウェブ予約)
   障がい者手帳呈示者と付添者(1名)は無料(予約不要)
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:www.artizon.museum

【同時開催】
石橋財団コレクション選(5・4階 展示室)
特集コーナー展示 清水多嘉示(4階 展示室)

「ピカソ いのちの讃歌」 ヨックモックミュージアム

おおらかなセラミック作品にみる生命の輝きと創造の喜び

展示風景から

洋菓子のヨックモックには、創業者・藤縄則一の「菓子は創造するもの」の想いを受け継いだ2代目・利康が、自身の眼で選び、グループとして30年以上をかけて収集したコレクションがある。現在500点を超える収集の中核をなすのが、パブロ・ピカソに関連するもの。油彩画、版画、貴重書などのほか、特筆すべきは、彼が晩年に手がけたセラミック作品で、その質・量は世界有数とされる。
これらを公開するため、2020年、ピカソの誕生日の10月25日に東京・青山の閑静な住宅街に開館したのがヨックモックミュージアムだ。毎年、多様な切り口でコレクションを紹介している。
現在、第4弾の「ピカソ いのちの讃歌」が開催中。ピカソのセラミック作品の特徴として、さまざまな生きもの、いのちの形を取り上げていることに注目し、描かれ、象られたモティーフに、彼の「生命」へのまなざしを読みとる。
「青の時代」から、「生と死」はピカソのテーマだったといえる。「バラ色の時代」には生の歓びが主旋律となるも、2度の大戦、自身の老いなど、死への畏れのなかにあった。だが、第二次世界大戦が終結し、南仏で新たな恋人ジャクリーヌと出逢い、陶芸を見いだした彼が、ふたたび生の歓喜にあふれたことは、自由でおおらかなセラミック作品に表れている。
本展では、「闘牛」「鳩」「フクロウ」「海の生き物、虫、鳥」「牧神パンとジャクリーヌ」のさまざまなモティーフに、生命のきらめき、それを超えて輝くものを土に込めたピカソの想いに寄り添う。
常に身近なものの輝きを見つめ、表した、彼の「讃歌」が、子どものような無邪気と、鋭い感性とともに見いだせるだろう。カフェのお菓子とともに楽しんでみては?

ⓒ2024-Succession Pablo Picasso-BCF(JAPAN)

展示風景から

展覧会概要

ピカソ いのちの讃歌

会場:ヨックモックミュージアム
会期:2023年10月24日(火)~2024年10月14日(月・祝)
時間:10:00-17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は翌平日)
料金:一般1,200円、学生800円、(小学生以下は無料)
   障がい者手帳呈示者と付添者(1名)は無料
電話:03-3486-8000
公式サイト:www.yokumokumuseum.com

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