「コシノジュンコ　原点から現点」
あべのハルカス美術館

世界的ファッションデザイナー、コシノジュンコの活動の全貌を紹介する展覧会が、大阪・あべのハルカス美術館で開催されている。
コシノジュンコは大阪・岸和田に生まれ、少女時代から服作りの才能を発揮していた。
本展では高校の美術部時代に描いた裸婦の油絵やデッサンなどの作品から始まり、実際に使っていたスケッチブックも展示されている。
「当時は制服に油絵の具がいっぱいついていました。バンカラみたいですね、私」と、展覧会場の報道陣の前でコシノは当時を振り返り、笑顔で語った。
その後、東京の文化服装学院に入学すると、新人デザイナーの登竜門といわれる「装苑賞」を最年少で受賞し、ファッションデザイナーとしての輝かしい経歴をスタートさせた。
その頃の同期に、高田賢三（KENZO）、松田光弘（NICOLE）、金子功（PINK HOUSE）らファッション界をリードした錚々たる顔ぶれのデザイナーが揃っていた。

コシノは学生時代から、ザ・タイガースなどのグループ・サウンズの衣装を手掛けるようになり、音楽関係者や芸能人、文化人との交流を活かして仕事の幅を飛躍的に広げていく。コシノは常に「人との出会いがクリエイティブの原点」と語っているが、その原点がこの時代にあるといえる。
そして1970年に開かれた「日本万国博覧会（大阪万博）」では、そのユニフォームデザインの担当をコシノジュンコが最年少で抜擢された。
本展ではパビリオンユニフォーム３点が展示されている。ビビッドで実用的なユニフォームに身を包んだガイドたちを、かわいらしく活動的に見せて話題となった。

1980年代以降、コシノは「アール・フュチュール（未来の芸術）」という表現に取り組み始めた。それは宇宙空間そのもの、つまり地球やそこに生きる人間、太陽、月、大気など宇宙を構成するすべてのことを表現しようという試みである。
この考えに基づき、生み出されたコンセプトが「対極」である。
これは、自然や地球、宇宙という完全なる創造物の象徴である「円」と、人間が論理に基づきつくり出す合理的なものを象徴する「四角」という二項と、太陽や昼を示す「赤」と月や夜を示す「黒」という二項など、対峙する二項が相反しながらも影響しあい止揚するという万物の摂理を示したものだという。
世界は異なるもの同士のバランスで出来ている。それを服で表現しようとしたのが「対極」というコンセプトなのである。

コシノは、京友禅や西陣織の伝統的な技術を活かしながら、斬新な感覚で着物やドレスをデザインし、新しい和の世界を広げるファッションショーを開いている。
日本に昔から伝えられてきた美意識や技術を、独特の感性で先鋭的なデザインに創造し、国内外に発信し続けている。その情熱は色褪せることなく、コシノの「現点」から「未来」へと続いていく。

展示会場に集まった取材陣の前で、コシノは本展の意義を自らの言葉で語った。
「もっとデザインができるので、最近の肩書はファッションにこだわってないです。オペラの舞台衣装もしますけど、花火のデザインもします。今年は12月24日に名護市のカヌチャリゾートで「第九」をテーマに「デザイン花火」をプロデュースします。
今回、この場所に立って、ここが自分の原点ということがよくわかりました。（展覧会に来る人は）おそらくはじめての体験をすると思います。年齢を問わず、ファッションのことに興味がない人でも、見たら何かが始まると思います。一つでもなにか感じるものがあれば、元気になると思っております」