名画でわかるヨーロッパの24時間 -4-

アート|2026.2.10

フォロワー23万人を超える人気アカウント「昔の芸術をつぶやくよ」のヤスダコーシキが、待望の新著を刊行! 著者史上「文字数は過去最大、お値段は過去最安」となった今回の本の中から、とびきりのテーマを限定公開する。

古くは旧約聖書の時代から。 近世まで女性たちを苦しめたハラスメント三大事件

レンブラント・ファン・レイン 『スザンナと長老たち』1647年 絵画館(ドイツ、ベルリン)

 あからさまな性被害を受けているのは人妻スザンナ。彼女はただ水浴びしていただけなのですが長老二人からセクハラを受け、不貞の濡れ衣まで着せられてしまいます。
 旧約聖書にあるこのエピソードはきっちりスケベ長老らが成敗されるスカッと爽やかな話になっているのですが、逆を言えば聖書の昔からセクハラ、パワハラはあったということ。ここでは現代の基準に照らしてハラスメントと思われる事案を取り上げてみましょう。

[1] ジャンヌ・ダルクの尋問(15世紀)
 記録に残っている苛烈なセクハラといえばこれをおいてほかにありません。ご存じのようにジャンヌは百年戦争の際フランスの救世主として立ち上がった乙女。最終的に敵国イングランドの手に落ちて火刑に処される人なのですが、彼女は処刑前に聖職者によって性的な尋問(異端審問)に遭いました。
 不道徳な女、または魔女として彼女の名を貶めたい狙いが聖職者らにはあったと思われます。「お前は乙女(処女)であるのか?」。このどストレートな質問に彼女は胸を張って答えます。「はい」。また「何故男装していたのか?」という質問に対して彼女はこう答えます。「(男ばかりの)軍隊で身を守るのにはそうするしかなかったのです」。
 こうして毅然とした態度で性的審問をはね除けた彼女でしたが、監禁されていた牢ではある貴族から強姦未遂の被害にも遭っていたとか。やり切れないですね。

[2] モンテスパン夫人の侍女(17世紀)
 ルイ14世の愛人であるモンテスパン夫人の侍女、クロード・ド・ヴァンも恐らくハラスメントに苦しんだであろう人物です。侍女として宮廷に来た彼女はさほど美人ではなかったそうですが、その明るさからルイ14世に見初められ愛人となりました。
 これに激怒したのがモンテスパン夫人。「おのれ! お前はもともと私の侍女だろうが!」と猛烈な勢いで彼女をガン詰めにたとか。あちらを立てればこちらが立たず。板挟みの彼女はさぞ苦しんだでしょう。愛人関係が終わると彼女はさっさとこの地獄のような宮廷を後にしています。

フランソワ・ブーシェ 『ポンパドゥール夫人』1756年 アルテ・ピナコテーク(ドイツ、ミュンヘン)

[3] ルイ15世とポンパドゥール夫人(18世紀)
 パン屋さんの名前の元ネタともなったポンパドゥール夫人はそもそも人妻。にもかかわらず彼女はルイ15世に要請され公妾となりました。後に宮廷で権威を振るった彼女の振る舞いを見れば単純にセクハラとは言い切れませんが、一国の王から迫られれば、そのお誘いを断れるはずがありません。公妾になるのは彼女にとってやむを得ぬ選択だったのではないでしょうか。
 実際、彼女はのちに夫(シャルル=ギヨーム・ル・ノルマン・デティオール)に復縁を願う手紙を寄こしています。夫に心を残しながら愛人を務めていたのが、この点からもわかります(復縁は夫から拒絶されました。そりゃそうですよね)。

平凡社新書「カラー版 名画でわかるヨーロッパの24時間」
ヤスダコーシキ著、田中久美子監修
定価:1,320円(10%税込)

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