1959年に橘秋子・牧阿佐美演出振付により全幕初演を迎え、歴代のプリマが踊り継いできた牧阿佐美バレヱ団の『ジゼル』。今回のタイトルロールはプリンシパルの青山季可で、本公演をもって全幕主演に別れを告げている。

橘バレエ学校で学び、日本ジュニアバレヱ、A.M.ステューデンツで故・牧阿佐美の薫陶を受けてきた青山。9歳のとき牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』のクララに、11歳のとき『ドン・キホーテ』のキューピッドに抜擢されるなど、子役のころから才能は群を抜き、天才少女として注目を集めてきた。
2001年に牧阿佐美バレヱ団へ入団後、2006年に牧阿佐美バレヱ団50周年記念公演『白鳥の湖』で全幕主演デビュー。以来数々の舞台で主演を務め、チャイコフスキー三大バレエをはじめとした古典作品のほか、『リーズの結婚(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)』のリーズ、プティ振付『アルルの女』のヴィヴェット、『ノートルダム・ド・パリ』のエスメラルダなど、幅広い作品で名演を披露している。

牧阿佐美バレヱ団の『ジゼル』は2015年の上演以来10年ぶりの再演で、青山にとってもタイトルロールを踊るのは10年ぶりとなる。
純粋無垢なジゼルは彼女に似合いの役どころで、軽やかに村娘を体現していく。舞台を重ねた今なお全身から初々しさが立ち上り、その透明感に驚かされる。アルブレヒトを信じ切り、そっと寄り添う姿は健気で、だからこそ狂乱のシーンが痛ましい。




第2幕では、しんとした気配を纏いウィリの哀しみを表現。アルブレヒトとのパ・ド・ドゥは冴え冴えと美しく、音の膨らみをすくい上げ、心のひだを丁寧に語る。技量は揺るぎなく安定感を保ち、パは正確でラインはしなやか。儚く匂い立つようなその佇まいに、醸造されたキャリアを見た。


アルブレヒト役はプリンシパルの清瀧千晴で、意外にも今回初役を踊っている。清瀧のアルブレヒトは邪気のない好青年で、世を知らぬ貴族といった感。ジゼルに対する愛は本物で、後悔の念は大きく、彼女をなくした哀しみに打ちひしがれる。青山との相性はいわずもがなで、今回が見納めというのは寂しい限りだ。


天才少女はプリマとなり、バレエに献身し、バレエ団の一時代を築き上げた。彼女が全幕を去る感慨は深く、胸に迫る。牧阿佐美の生前は褒められたことがなかったという青山だが、この舞台を見て師は何を語るだろう。会場からは満場のスタンディングオベーションが沸き起こり、鳴り止まぬ拍手で愛すべき名花の勇退を惜しんだ。
(6月14日 東京文化会館 )


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