新国立劇場バレエ団が、3月に〈バレエ・コフレ〉と題した、まさに題名の宝石箱(コフレ)を想起させるような珠玉のトリプルビルを上演した。1910年バレエ・リュスで初演されたフォーキンの名作『火の鳥』から、バレエ芸術の粋を示すランダーの『エチュード』(1948年初演)、そして世紀末の寵児フォーサイスの快作『精確さによる目眩くスリル』(1996年初演)まで、20世紀バレエ史を辿るもの。7月のロンドン公演を前に、非常に士気の高い公演であった。
『火の鳥』~芸術に革命をもたらしたバレエ・リュスの理念を再確認
幕開きの『火の鳥』は、新国立劇場では、2010年に初演され、今回は、12年ぶりの再演。フォーキンの緻密な振付に、ストラヴィンスキーの絢爛とした音楽、ディック・バードがゴンチャローワのデザインに基づいて制作した壮麗な舞台美術(特に最後の結婚式のシーン)が一体となって迫り、バレエ・リュスの理念を再確認した次第。

まず、火の鳥の小野絢子が絶好調。跳躍にもステップにも張りがあり、片時も目を離させないオーラを放ち、全編をリードする貫禄さえ感じさせた。イワン王子の奥村康祐は、童話の主人公そのものの純真さ。踊らずとも感情表現が明瞭で、火の鳥とのやりとりや王女ツァレヴナ(益田裕子)と恋に落ちたシーンなど要所で名役者ぶりを発揮した。
後半で、イワンの前に魔物たちに続いて魔王カスチェイ(小柴富久修)が立ちはだかるシーンでは、音楽も激しさを増し、人海戦術を駆使した群舞が奥ゆかしくも迫力に富み、バレエ・リュスの時代に想いを馳せた。


フォーサイス『精確さによる目眩くスリル』に観客も大興奮
休憩を挟んで、フォーサイスの『精確さによる目眩くスリル』(バレエ団初演)。シューベルトの交響曲第9番の最終楽章に振付けられたものだが、5人のダンサーは、怒涛のように押し寄せる音の洪水に飲み込まれることなく、危うくスピーディーな振付に果敢に挑んでいく。スリルたっぷりで、実に驚異的なこの作品は、当夜の白眉と言ってもいい。


グリーンの円盤形のチュチュをつけ蝶のようにひらりと舞う米沢唯、直塚美穂、根岸祐衣。アスリート並みの身体能力を誇示する速水渉悟と渡邊峻郁。一人一人の個性は強烈で、バラバラに踊っていたかと思うと、いつしか一致、全員が5番ポジションで並んで終わる瞬間など実に爽快だ。



ダンサーの成長を促す作品『エチュード』、体力の限界に挑戦!
最後は、ランダーの『エチュード』。今回この作品をレパートリーに入れたのは、ダンサーたちを体力の限界に挑戦させ、さらに一歩前進を促すためだろう。最初はバーレッスンからスタートするが、回転やジャンプなど大技が加わって舞台は尻上がりに白熱、フィナーレまで息もつかせない。


なかでもプリマ・バレリーナの木村優里の躍進ぶりに目を見張る。シルフィードを優雅に演じたかと思えば、超絶技巧を涼しげにこなすなど、堂々として頼もしい。福岡雄大は見せ場のマズルカはじめ全編で風格ある踊りを繰り広げ、井澤駿は安定感ある演技で、プリンシパルの余裕を見せた。そして統制の取れたコール・ド・バレエにも拍手を送りたい。



第2キャストも充実。綺羅星の如き次世代スター候補たち
今回の公演には全プリンシパルが顔を見せていると同時に、第2キャストに次世代の有望株が多数抜擢され、バレエ団の全容が見渡せたのがよかった。


2日目マチネ。まず、『火の鳥』の表題役を演じた池田理沙子は、ほっそりとし、ラインが美しくなり、火の鳥の演技にもメリハリが出て進境著しい。王女の内田美聡も瑞々しい舞台姿で、目を引いた。フォーサイス作品では、花形悠月、山本涼杏、東真帆、森本亮介、上中佑樹が、ストレートに技を繰り広げていく様が心地よい。これからどこまで伸びていくことかと期待をもたせた。

『エチュード』のプリマは柴山紗帆。慎ましさの中に様式美を漂わせる。今後細部を練り上げて、完成度を高めてほしい。さらに収穫は、プリンシパルを演じた、ファースト・ソリストの水井駿介とファースト・アーティストの山田悠貴。素早く軽快な足捌きや跳躍、回転を惜しみなく披露した後、フィナーレでも、前者は宙に浮くような跳躍を見せ、後者は力強いトゥール・アン・レールで興奮を誘った。今後、間違いなくバレエ団の重要な戦力となっていくことだろう。演奏はマーティン・イェーツ指揮東京交響楽団。(3月14日~16日 新国立劇場オペラパレス)



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