360余年の歴史を誇るバレエ団のアデュー公演とは
「パリ・オペラ座バレエ」、その歴史は17世紀にまで遡る。ヴェルサイユ宮殿を造営し、"太陽王“と称された、バレエ愛好家であり自らも舞踊に長けたフランス国王ルイ14世が、1661年に王立のダンスアカデミーを設立したのが発端だ。
長い歴史を経て、今や、世界最高峰のバレエ団のひとつとして高い評価を得る「パリ・オペラ座バレエ」。ダンサーは、一度入団すれば雇用が保障され、42歳で定年退職。同バレエ団の最高位ダンサー"エトワール“たちは、"アデュー(フランス語で、永遠の別れ)“と呼ばれる引退公演で、華々しいラストを飾るのが恒例だ。
至高のエトワール、自ら望んだ『ジゼル』で引退
5月18日、女性エトワールの一人、ミリアム・ウルド=ブラームの引退公演が、ガルニエ宮で行われた。演目は古典名作の『ジゼル』。ここ数年、2〜3年後に引退を控えるエトワールは自分が最後に踊りたい作品を希望することができ、その作品が年間公演スケジュールに組み込まれるケースが増えている。『ジゼル』も本人が望んだ引退作品だ。
1982年生まれで、99年にパリ・オペラ座バレエに入団、2012年6月18日、『ラ・フィーユ・マル・ガルデ(リーズの結婚)』を踊ってエトワールに任命された、ウルド=ブラーム。華奢で繊細、妖精のような佇まい。その雰囲気を裏切らない、宙を舞うような浮遊感ある跳躍や、たおやかでエレガントな動きやライン、役に入り切って観客の心を打つ演技力を併せ持つ、同バレエ団のエトワールの中でも一際魅力を放つダンサーだった。
そんな偉大なダンサーの引退公演、チケットは瞬時に売り切れ、壮麗なガルニエ宮は天井桟敷の奥まで観客がぎっしり。日本から駆けつけた観客の姿も少なからず見られた。
圧巻の第2幕は、ウルド=ブラームの真骨頂
第1幕では、恋人をひたむきに愛する真心溢れた村娘ジゼルを愛らしく演じたのちの、裏切りを知った後の狂気から死に至る演技が圧巻。この作品における最大かつ最難のシーンだが、ドラマティックかつ真実味ある演技で、2000人の観客の視線を釘付けにした。
第2幕は、ウルド=ブラームの真骨頂。彼女独特の、頭から首、肩、腕、指先に至る、崇高なまでに美しいライン。精霊になったジゼルの、重力を感じさせないふわりとなめらかな動き。そして、自分を裏切った恋人が死から逃れた、と知った時の慈愛に満ち溢れた表情、それに続く、深い愛と赦し、そして哀しみをたたえた最後の表情。技術を超越した、観るものの心を強く揺さぶる表現に、多くの観客が眼を潤ませた。
そして再び幕が上がり、カーテンコール。ウルド=ブラームが登場し、キラキラと紙吹雪が舞い散る舞台に立ち、総立ちの観客の大喝采と大拍手に何度も応える。オペラ座総裁、バレエ団監督のジョゼ・マルティネス、彼女をエトワールに任命した当時のバレエ団監督だったブリジット・ルフェーヴル、同僚エトワールたち、夫と二人の息子も舞台に姿を見せ、ウルド=ブラームに花を贈り、抱き合い、偉大なエトワールの最後の舞台に、感動を添えた。
(5月18日 パリ・オペラ座ガルニエ宮)
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