山梨県のリゾート地、清里高原で野外バレエ公演「第34回 清里フィールドバレエ」(バレエシャンブルウエスト)が7月27日から8月7日の11日間にわたり開催された。1990年の初回こそ2公演だけの小規模イベントだったが、年々、ファンを増やし続け、コロナ禍のさなかも途切れることなく回を重ねてきた定例イベントだ。
真夏の夜の『くるみ割り人形』で幻想の世界へ
会場は、JR小海線の清里駅にほど近い商業施設〈萌木の村〉に設置された、特設野外劇場。ステージと客席は頭上に覆いのないオープンスペースゆえ、暮れなずむ時間帯に開演、舞台が進行するにつれて辺りは暗闇に包まれ、涼やかな夜風が吹きぬける。
天候に左右される期間限定ステージとはいえ、ノウハウを蓄えた地元の職人チームが作り上げた、フロアを濡らす夜霧を乾かす床暖房風の設備(バレリーナが履くトウシューズは爪先をノリで成形しているため、水分は大敵!)や、照明器具を設置するタワーを備えた、本格的な野外仕様なのである。
もう一つ、清里フィールドバレエならではのお楽しみがある。開演前や休憩時間には、隣接するレストラン直送の冷えた地ビールや熱々のソーセージが会場内の飲食スペースで供され、バレエにちなんだ小物やスイーツ類を販売するコーナーも設けられている。堅苦しさのない賑わいに浸る野外バレエは一興である。
英国ロイヤル・バレエ団から佐々木万璃子が客演!
今シーズンの演目は、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』と並ぶチャイコフスキーの三大バレエ『くるみ割り人形』全幕。少女クララが、クリスマスイヴに見る夢の中でくるみ割り人形に誘われ、雪の国とお菓子の国を訪れる、というファンタジックな設定だ。舞台装置をあえて減らし、ステージの背後に広がる自然の木立と夜空で幻想性をいや増す演出が心にくい。
初日7月27日、お菓子の国でクララを歓待する女性主役「金平糖の精」に扮したのは、英国ロイヤル・バレエ団から客演した佐々木万璃子。彼女は清里フィールドバレエの創設者、今村博明と川口ゆり子が東京・八王子で主宰するバレエシャンブルウエスト出身で、傘下のバレエスクールで川口に師事、若手の登竜門、ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞、英国ロイヤル・バレエスクールに学び、同国のバーミンガム・ロイヤル・バレエ団を経て、英国バレエ界の最高峰である英国ロイヤル・バレエ団に入団を果たした俊英である。古典バレエの主役にふさわしい気品と安定したテクニックを見せてくれた。
王子役に扮し、金平糖の精の相手役を威風堂々と務めたのは、彼女と同じバレエ団に籍を置くルーカス・ブレンツロ。ノルウェーで制作されたドキュメンタリー映画「バレエボーイズ」に出演して注目された後、佐々木と前後して英国ロイヤル・バレエスクールに入学、英国ロイヤル・バレエ団に入団したダンサーで、私生活のパートナーでもあるそうだ。
バレエシャンブルウエストの好演や恒例の花火に拍手喝采!
脇を固めたバレエシャンブルウエストの団員たちの好演も印象に残る。雪の王国で「雪の女王」を踊った伊藤可南やお菓子の国で「葦笛」を踊り、他日公演では金平糖の精を踊った柴田実樹など、整った容姿の若手がしのぎを削り、クリスマス・パーティの場面ほかで藤島光太が卓越したテクニックを披露。次世代の人材が育っていることを感じさせる陣容だった。
クララの夢の終わりを告げる場面で、恒例となった色鮮やかな花火が打ち上げられると、観客席からは拍手と歓声が湧き上がった。
日本では他に例を見ない長期の野外定例公演「清里フィールドバレエ」は、劇場では味わうことのできない、五感で楽しむ夏の風物詩なのだ。
[公演DATA]第34回 清里フィールドバレエ(バレエシャンブルウエスト)
7月27日~8月7日 清里高原萌木の村内 特設野外劇場
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