Noism Company Niigata が、この夏、Noism0+Noism1『アルルの女』/『ボレロ』を上演。いずれも金森穣芸術総監督の演出振付作で、新潟での初演に続き、彩の国さいたま芸術劇場で埼玉公演が開催された。

第一部は新制作『アルルの女』。バレエではローラン・プティ振付作が知られるが、金森はアルフォンス・ドーデの短編小説を原作とする戯曲にビゼーが作曲した劇付随音楽と組曲を用い、独自の視点で作品に臨んでいる。
アルルの女とフレデリが抱き合う濃密な幕開けから一転、アルルの女はフレデリの母・ローズへと姿を変える。アルルの女は現実か幻か。ビゼーの劇的な響きと共に、女性たちの群舞が家族の闇と不吉な結末を暗示する。
フレデリの母・ローズに扮するのは井関佐和子。絡め取るようにフレデリをかき抱き、熱い視線で息子を見つめる。井関はただならぬ気配で他を制し、フレデリに近づく者を排除する。それはもはや母の愛を超え、狂気すら感じさせるほど。
フレデリは母の愛を重荷に感じつつ、それでいて母を慕う。二人の関係性は歪み、近親相姦的でもある。フレデリ役の糸川祐希は近年抜擢が続き、この初夏には黒部シアターで上演された『めまい — 死者の中から』でも主要パートを踊ったばかり。とりわけ今回は大役で、大きく飛躍を遂げた感がある。目力を強く保ち、母との関係を振り切らんとするフレデリの苦悩を切実に体現してみせた。


フレデリの祖父を日本人と設定したのも面白い。祖父・常長の山田勇気は刀を手にフレデリへ精神性を伝えんとし、やがて彼自身も身を滅ぼす。本作のキーパーソンとなるのがフレデリの弟のジャネ。知的障がいを持つジャネはどこまでも無垢で、ローズに虐げられても笑顔を絶やすことはない。ジャネ役の太田菜月は道化として物語に存在し、いびつな家族の象徴であり現代社会のメタファーとしての役割を担う。
舞台上には巨大なフレームが置かれ、その内と外で人々が蠢く。色とりどりの花がちらばり、祝祭感を強めていく。一方ローズら家族は黒装束で、フレームに収まる一家の姿は何とも禍々しい。一人が欠けると、バランスは崩れ、やがて一家は破滅へと向かう。演出は衝撃的で、舞踊家の捨て身に息をのむ。
大人たちの悲劇をよそに、無垢な者だけがぽつり残される。特異な家族の関係性は、家族という最小単位を超え、社会の構造を浮かび上がらせる。金森は抽象と具現、演劇性と舞踊を巧みに交え、生と死を色鮮やかに描く。そのインパクトは強烈で、不条理なドラマに引き込まれた。

第二部は『ボレロ』。2020年の「映像舞踊BOLERO」に、2023年の「りゅーとぴあジルベスター・コンサート」、2024年の「サラダ音楽祭」と、これまでたびたび取り組んできた題材で、今回は劇場版『ボレロ-天が落ちるその前に』として上演を行っている。

従来の『ボレロ』の舞台であるセビリヤの酒場から、金森は場を修道院に、踊り子の女性を生け贄と設定。真紅のドレスを纏う井関が中央にしんと立ち、一人静かに動き始める。井関はそぎ落とされた身体をもって、生け贄として生への渇望を踊る。彼女の動きは周囲へ伝播し、人々は突き動かされていく。閉塞感を打ち破り、やがて舞台は躍動感で満ちあふれる。一つ方向を見つめる舞踊家たちの視線は清々しく、舞踊集団の本質を強く感じた。(2025年7月11日 彩の国さいたま芸術劇場)




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