2025年新春、ウクライナ国立バレエが来日!
バレエ団の長い伝統と今を伝える

カルチャー|2025.1.28
文=小野寺悦子(編集・ライター)、写真提供=光藍社

寺田宜弘監督のもと、引っ越し公演を実現!
新旧レパートリーでみせたバレエ団の矜持

 150年以上の歴史ある劇場の伝統を受け継ぐウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)が、年明け来日ツアーを敢行。2022年に芸術監督に就任した寺田宜弘監督のもと、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団を帯同し、日本各地をツアーで巡った。

新旧レパートリーで魅了 「プレミアム・ガラ」

 ツアーは東京公演からスタート。「プレミアム・ガラ」と『ジゼル』(全幕)が披露された。

 「プレミアム・ガラ」は、ウクライナ国立バレエのレパートリーに新作を加えた二部構成。第一部はレパートリー『ゴパック』(振付:R.ザハロフ、A.レフヴィアシヴィリ)から。ウクライナの民族舞踊を集約した作品で、男性ダンサーが次々と大技を繰り出し、その力量を競い合う。大輪のひまわりの花を背景に、民族衣装も愛らしく、ステージは明るく陽気な雰囲気に満たされた。

『ゴパック』
『ゴパック』Photo:千葉秀河ⒸKORANSHA

 『ジゼル』(改訂振付:V.ヤレメンコ)では、カテリーナ・ミクルーハとヤン・ヴァーニャが第二幕よりパ・ド・ドゥを披露。ミクルーハは2021年にキーウ国立バレエ学校を卒業し入団した若手スターで、ここにきて著しい成長を感じさせる踊り。ヴァーニャは持ち前の安定感を発揮し、優雅な所作で気品を振りまいていた。

『ジゼル』カテリーナ・ミクルーハ
『ジゼル』カテリーナ・ミクルーハ、ヤン・ヴァーニャ 
『ジゼル』カテリーナ・ミクルーハ Photo:瀬戸秀美ⒸKORANSHA

 『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』は同団の新レパートリー。英国の振付家フレデリック・アシュトンの名作で、今年はウクライナでの全幕上演が予定されているという。
 リーズを踊ったイローナ・クラフチェンコは芯が強くバランス感覚に富むバレリーナ。リボンの演出も楽しく、日本での全幕上演が待ち望まれる。

『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』
『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』イローナ・クラフチェンコ、ニキータ・スハルコフ 
『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』Photo:瀬戸秀美ⒸKORANSHA

 『海賊』(改訂振付:V.ヤレメンコ)は第一幕より、アリ、コンラッド、メドゥーラのパ・ド・トロワ。メドゥーラ役はオリガ・ゴリッツァの降板により、エリーナ・ビドゥナが出演。スラリとした肢体を持つ美貌のバレリーナで、アリ、コンラッドのダイナミックな味わいとの対比で魅せた。

 『マーラー交響曲第3番』(振付:J.ノイマイヤー)よりには、ハンブルク・バレエ団プリンシパルの菅井円加とアレクサンドル・トルーシュがゲストで登場。トルーシュはウクライナ出身で、伸びやかな踊りが印象的。菅井は強い身体と隙のない技量で強烈な存在感をみせつけた。

『スプリング・アンド・フォール』

 第二部はJ.ノイマイヤーの振付作『スプリング・アンド・フォール』。2023年5月にキーウで初演し、今回全編日本初披露となった。
 舞台で描かれる景色は移ろい、ダンサーはそれを豊かに表現していく。春、秋、大いなる自然と、刻々と姿を変える世界は美しくも切ない。同時にどこか希望を伴い、バレエ団の今を改めて感じさせた。
(2025年1月4日 東京文化会館)

『スプリング・アンド・フォール』イローナ・クラフチェンコ、ニキータ・スハルコフ 
『スプリング・アンド・フォール』
『スプリング・アンド・フォール』Photo:瀬戸秀美ⒸKORANSHA

菅井円加全幕初主演! 『ジゼル』

 日本からの義援金によって2023年に新制作され、2024年1月の東京公演で世界初演を迎えた話題作。当初ジゼルに予定されたアリーナ・コジョカルは怪我のため降板し、菅井円加が急遽主演を務めている。

『ジゼル』

 全幕でジゼルを踊るのは初めてという菅井だが、役を自分のものにする圧倒的な力量は驚くほど。一幕ではポワントのままパンシェに入り、揺らぐことなくポーズを決める。ステップの滞空時間はきわめて長く、恋する少女の弾む想いを表現していく。アルブレヒト役はアレクサンドル・トルーシュで、若々しく健やかにジゼルへの想いをストレートに語り上げた。

『ジゼル』菅井円加 
『ジゼル』菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ 
『ジゼル』菅井円加 

 どこまでも高貴な面持ちでバチルドを踊ったエリーナ・ビドゥナに、ミルタのアナスタシア・シェフチェンコはすらりと冷たい表情でウィリの女王を体現。コール・ド・バレエも質が高く、ウィリの名シーンを美しく強固に描き上げていた。

『ジゼル』エリーナ・ビドゥナ、菅井円加 
『ジゼル』アナスタシア・シェフチェンコ 
『ジゼル』

 ヤレメンコの振付による本版は演出が独特で、ラストシーンは従来の版とは一線を画す。それは現在のウクライナだからこそ生まれた希望への道筋なのかもしれない。

『ジゼル』PhotoPhoto:瀬戸秀美ⒸKORANSHA

 困難な状況下にありながら日々の鍛錬を欠かすことなく、ツアーに旅立ち、舞台に立つ。彼らの想いはいかほどか。会場はスタンディングオベーションに沸き、惜しみない拍手が贈られていた。
(2025年1月5日 東京文化会館)

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