土砂災害を未然に防ぐ砂防ダムを訪ねて
前回は駅前からバスに乗車し、「ぶなの森まつるべ館前」で下車。直下型地震で落橋した祭畤(まつるべ)大橋を間近に見学した。後編の今回は、祭畤大橋から一ノ関駅前駅に戻る途中で、いくつかの土木構造物を、バスと徒歩で訪ね行く旅である。
※今回の写真は、2021年6月に撮影したものです。
本日の旅程
10:55
槻木平バス停を徒歩で通過 1時間ほど祭畤で過ごした後、そのまま一ノ関駅方向に向かって歩くと、次のバス停「槻木平(つきのきだいら)」に着く(map⑤)。一ノ関行きのバスは11:47と17:12の2本しかない。ここで1時間ほど待ってもいいが、せっかくなので次のバス停まで歩いてみることにした。
※mapは記事の一番下にあります
次のバス停「市野々原(いちののばら)」までは約2.3km、のんびり歩いても30分ほどなので後から来るバスに乗り遅れることはないだろう。
6月末、快晴のアスファルトは照り返しも強い。水分補給しながら歩いていくと、祭畤の展望の丘にあったのと同じ様式の東屋が見えてきた(map⑥)。
祭畤大橋が落橋した「岩手・宮城内陸地震」により、この地区も地滑りが発生。磐井(いわい)川が崩れ落ちた土砂で埋まり、天然ダムのようになってしまった。この東屋は、地域の安全を取り戻すために実行した対策を、図解入りパネルで展示している場だった。もしバスに乗って通過していたら気が付かなかっただろう。こんな発見がたまにあるから、歩いて現地を巡るというのは悪くない。
11:37
次に目指すは矢櫃(やびつ)ダム一区間歩いて「市野々原」バス停に到着(map⑦)。国道を行き交う車はあるが、歩いているのは私だけだ。日陰に入ると風が心地よい。ここで20分弱、バスが来るのをじっと待つ。
やがて、午前中に1便だけ走る貴重なバスが、道の彼方に見えてきた。乗車するのは一区間だけだが、いそいそとバスに乗り込む。この後、まだまだ歩く予定なので体力温存は大事なのである。
12:03
越流する砂防ダムの機能美およそ3分で「矢櫃ダム」バス停に到着(map⑧)。バスを下車して、停留所から少し祭畤方向に戻ると橋が見えてくる。磐井川と国道342号が交差する場所に架かる昇仙橋だ。
橋に近づくと、雲を映す静かな水面の磐井川が見える。目的の砂防ダムはどこにあるのか。
橋に近づくにつれて、水音が大きくなってくる。橋から磐井川上流側の下方を見ると、どうどうと川の水が垂直に流れ落ちている。ここが、矢櫃ダムなのだ!(map⑨)
橋に近づくにつれ、水音が大きくなってくる。橋から磐井川上流側の下方を見ると、どうどうと川の水が直角に流れ落ちている。ここが、矢櫃ダムなのだ!(map⑨)。
水が流れ落ちる瞬間、川は生き物のように静から動へ様子を変えていく。水の流れとはこんなにも美しく、そしてどこかそら恐ろしさも感じるものだったのかと改めて思う。
岩手県には「矢櫃ダム」という名前のダムが2つある。岩手の中西部、雫石町にある矢櫃ダムは、ロックフィル型式の農業用防災ダムだ。
一方、一関市の矢櫃ダムは、厳密には「砂防堰堤(さぼうえんてい)」と呼ばれるものだ。土砂災害を防止するため、上流部から流されてきた土砂を受け止め下流への土砂流出を軽減する目的で設置されている。
昇仙橋から磐井川の下流側を見てみると、少し斜めに架けられた人道橋がある。実はこの橋の名前も「昇仙橋」という。
2008(平成20)年に発生した地震で、橋台(橋の両端を支える部分)の下にあった岩が崩れ、橋は約20m下の谷底に落下してしまった。2年半後に、現在の橋が架けられた。
人道橋の昇仙橋から、国道342号の昇仙橋と矢櫃ダムを眺めてみる(map⑩)。
砂防ダムに守られた磐井川の水は、下流へと静かに流れていく。
お昼をすぎておなかもすいてきたが、次のバスは夕方までない。が、心配はいらない。バス停で2つ先の「瑞泉郷前」までいけば、14:10発の始発があることを事前に調査済みだ。
だから、がんばって歩かねばならない(笑)。
12:39
山王山温泉で温泉につかり小休憩30分以上歩いて、山王山温泉の「瑞泉郷」までたどり着く(map⑪)。始発バスの発車時刻まで90分あるので、温泉に入る時間も十分にある。もちろん、宿泊者以外でも温泉を利用できる曜日や時間帯を確認済み。こういう楽しみに対してぬかりはない。
14:31
鋼のかわり竹を利用!? 戦時中に造られた長者滝橋 温泉でリラックスした後、始発バスに乗り、「長者滝橋」バス停で下車する(map⑫)。(疲れていた場合は、そのまま駅まで行き、早めの新幹線で帰るというプランもあった)
土木旅の最後を飾るのは、景勝地として名高い厳美渓(げんびけい)の一角にある長者滝橋である(map⑬)。
橋の外観は、それほど珍しいものではないように見えるが、この橋の注目ポイントは橋の内部にある。たもとにある案内板によれば、長者滝橋は「竹筋(ちっきん)橋」で、鋼材のかわりに竹が使われていることが特徴だ。建設が昭和14年ということは、戦時下の鋼材不足が生み出した先人の工夫といったところだろうか。
ただし、本当に鋼材の代わりとして竹ががっつりと使われているかどうか諸説あるようなので、その可能性がある……といった程度の認識でよいのかもしれない。
これで前後編にわたる土木旅はおしまいだ。奇岩が並ぶ厳美渓の渓谷を散策しつつ、最後のバス停(map⑮)に向かうことにしよう。
牧村あきこ
高度経済成長期のさなか、東京都大田区に生まれる。フォトライター。千葉大学薬学部卒。ソフト開発を経てIT系ライターとして活動し、日経BP社IT系雑誌の連載ほか書籍執筆多数。2008年より新たなステージへ舵を切り、現在は古いインフラ系の土木撮影を中心に情報発信をしている。ビジネス系webメディアのJBpressに不定期で寄稿するほか、webサイト「Discover Doboku日本の土木再発見」に土木ウォッチャーとして第2・4土曜日に記事を配信。ひとり旅にフォーカスしたサイト「探検ウォークしてみない?」を運営中。https://soloppo.com/