猫を通して日本を知る、「ゆかし日本、猫めぐり」。第17回は、寒い季節に「ほっ」とする、人懐っこい猫ちゃんたちが梅宮大社より登場。
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にぎやかな神社で、
猫のぬくもりを感じる。
京都市西部、梅津の地に鎮座する梅宮大社。
酒造りの守護神、酒解神(さかとけのかみ)など4神を祀るこの神社を訪ねたのは、あるキンと冷えた冬の朝。
鳥居をくぐり、随身門と呼ばれる楼門の前で、酒造関係者から奉納されたという酒樽を見ていると……。
出た!
近づくと、ストンと座ってお出迎え。
手を差し出すと、グウグウ、ムニャムニャ……。
何かを訴えるようにすり寄ってきた。
もしかして、覚えている?
実はこの猫、はじめて訪れた10日ほど前も膝に乗ってきて、一緒にしばらく過ごしたのだ。
この神社の猫たちは、人に向かってよくしゃべる。声に出す、出さないにかかわらず、身体全体で語りかけてくる。
人間だからと、特に区別していないよう。
そうして気が向くと、そーっと膝に。
猫と人、互いのぬくもりが伝わって、心まであたたかくなる。
もっとも、誰を選ぶかは猫次第。人間は、ただ静かに座ってじっと待つ。
ただし一度膝に乗ってくると、30分、1時間は動けない。その間ずっと居心地良くいてもらうのは、それなりに大変ではあるけれど、それでも「来てくれた!」という想いが勝つからか、どの顔もうれしそう。
「たまに立ち寄る」という少年も、学校帰りにまったり。
長時間に備え、座布団を持参する人や、衣類に付いた毛を取るためのコロコロクリーナーを用意してくる人も。
ときには膝を貸す者同士、世間話が始まったり、猫に関する情報を交換したり。日々境内の一角で、「お膝リレー」が繰り広げられる。
境内には氏神さんとして日参する近隣住民や一般参詣客、さらに和装姿で結婚写真の前撮りをするカップル……。常に人が絶えることはない。
そもそも、この神社の創祀は奈良時代前期。橘諸兄(もろえ)の母、県犬養三千代(あがたのいぬかいのみちよ)が、橘氏一門の氏神として、現在の京都南部にお祀りしたのがはじまりという。その後所在は転々とし、平安時代前期に現在の地に鎮座された。
ご祭神の酒解神は、大山祇神(おおやまずみのかみ)のこと。『日本書紀』によれば、娘の木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)が男児を無事出産したのを大山祇神がたいそう喜び、狭名田(さなだ)の稲穂で「天甜酒(あまのたむさけ)を造ってお祝いし、神々に捧げたことが、穀物で酒を醸したはじまりという。現在も毎年4月に、醸造関係者が新酒を供え、感謝を捧げる献酒報告祭が行われている。
とはいえ、猫たちにとって境内は、自由に闊歩できる場所。
ときには片隅で爪を研ぎ、
拝殿の真ん中で静かに瞑想。
一方、ご本殿を囲む塀の屋根の上で、キリッとした勇姿を見せてくれることも。
気がつけば猫時間に迷い込み、1日があっという間に過ぎていた。
〒615-0921
京都市右京区梅津フケノ川町30
℡ 075-861-2730
拝観時間 9:00〜17:00
堀内昭彦
写真家。ヨーロッパの風景から日本文化まで幅広く撮影。現在は祈りの場、祈りの道をテーマに撮影中。別冊太陽では『日本書紀』『弘法大師の世界』などの写真を担当。著書に『ショパンの世界へ』(世界文化社)、『おとなの奈良 絶景を旅する』(淡交社)など。写真集に『アイヌの祈り』(求龍堂)がある。
堀内みさ
文筆家。主に日本文化や音楽のジャンルで執筆。近年はさまざまな神社仏閣をめぐり、祭祀や法要、奉納される楽や舞などを取材中。愛猫と暮らす。著書に 『カムイの世界』(新潮社)、『おとなの奈良 心を澄ます旅』(淡交社)、『ショパン紀行』(東京書籍)、『ブラームス「音楽の森へ」』(世界文化社)など。