恐れるか、戯れるか。特別展「北斎 百鬼見参」

アート ニュース|2022.6.21
文=web太陽編集部

葛飾北斎と門人らによる鬼の浮世絵の展覧会が、すみだ北斎美術館で6月21日より開催される。本展では鬼にまつわる浮世絵などを前期・後期あわせて約145点を展示。人気の錦絵「百物語」や版本などから鬼に関連する作品を紹介し、鬼才・北斎がどのように鬼を捉え、表現してきたかに迫る。北斎の鬼の肉筆画「着衣鬼図」、「念仏鬼図」、「道成寺図」の3点が展示されるが、なかでも「道成寺図」は修復後初公開となり早くも話題だ。

葛飾北斎「着衣鬼図」佐野美術館蔵(前期)

署名には、「嘉永元戌申年 六月八日 門人北曜におくる 齢八十九歳 画狂老人卍筆」とある。北斎数え89歳の6月8日、出羽国出身の門人、本間北曜(ほんまほくよう、1822-1868)に贈ったもの。北曜はペリー来航時の黒船図を残すが、幽閉後毒薬によって暗殺されたとされる。

葛飾北斎「念仏鬼図」すみだ北斎美術館蔵(後期)

「念仏鬼図」も「着衣鬼図」同様に僧衣をまとう赤鬼を描いている。大津絵の主題である「藤娘と鬼の念仏」が描かれユーモラスな趣向となっている。大津絵に登場する鬼は「風刺画」とされ、赤鬼は、藤娘の絵姿と、法具を前に煩悶しているようだ。

葛飾北斎「道成寺図」すみだ北斎美術館蔵(前期)

能のなかでも大曲である「道成寺」のシテを蛇ではなく鬼として描いている。シテ柱に巻きつくことで、動線とリズムを感じる。本作はこの度本紙部分および掛軸表装の修復を行い、本展が修復後の初公開となり、同館での展示(前期展示:6月21日~7月24日)も初となる。また、新たに同作品の高精細複製画(プリマグラフィ)を制作、後期展示(7 月 26 日~8 月 28 日)にて展示されている。

展覧会は、「1章 鬼とは何か」、「2章 鬼となった人、鬼にあった人」、「3章 神話・物語のなかの鬼」、「4章 親しまれる鬼」で構成される。

「1章 鬼とは何か」では、森羅万象を描いた北斎の作品から、江戸時代の人々がどのよう
に鬼をイメージし、どのような存在を鬼と考えていたかを紐解いていく。

葛飾北斎『釈迦御一代記図会』六 暴悪を罰して天雷流離王が王宮を焼君臣を撃殺す図 すみだ北斎美術館蔵(通期)

弘化2年(1845)4月、山田意斎(やまだ いさい、1788-1846)作。北斎86歳の時に刊行された仏伝読本。前北斎卍老人繍像の名で描かれ、釈迦の視点ではなく多角的な視点で釈迦の生涯を説いた内容で、北斎の図絵は構図の大胆さとともに描写の精妙さが際立つ。雷神の乗り物は雲や龍ではなく雷獣で、独自性を出している。

「2章 鬼となった人、鬼にあった人」では実在した歴史上の人物のうち、鬼となった人、鬼にあったとされる人々の事績やエピソードをもとに制作された北斎の作品を紹介。

葛飾北為「摂州大物浦平家怨霊顕る図」すみだ北斎美術館蔵(後期)

北斎門人の葛飾北為(かつしか ほくい、生没年不詳)による本図は、源頼朝に謀反を疑われて摂津の大物浦から西国に逃れようとする義経に、壇の浦で倒した平知盛らの怨霊が襲いかかる場面。弁慶による経文により怨霊を追い払うが、船は遭難してしまう。「平家物語」「義経記」で語られた源義経の逸話を能楽や歌舞伎の演目「船弁慶」として脚色された。

蹄斎北馬「角大師と蝸牛図」すみだ北斎美術館蔵(前期)

蹄斎北馬(ていさい ほくば、1770-1844)は、北斎の弟子では筆頭にあげられ魚屋北渓(ととやほっけい、1780-1850)とともに双璧とされる。
角大師は、平安前期に比叡山延暦寺の天台座主であった良源(912-985)が鬼に化身した姿。最晩年73歳の時、良源が瞑想をしていると疫病神が訪れる。差し出した小指に疫病が取りつくと、たちまち高熱を発するが法力により疫病神を退散させる。良源は弟子たちに鏡を持ってこさせ、鏡の前に座ると鬼と化したその姿を明普阿闍梨が写し、それを護符とした。本作は角大師と蝸牛が描かれた肉筆画。

「3章 神話・物語のなかの鬼」では、日本の神話・物語に登場する恐ろしい鬼、哀しい鬼、などイメージとしての鬼を集め、いくつもの鬼の様相を紹介。

卍楼北鵞「為朝と鬼ヶ島図」すみだ北斎美術館蔵(後期)

北斎の門人ないし抱亭五清(ほうてい ごせい、?―1835)の門人ともいわれる卍楼北鵞(まんじろう ほくが、?―1856)の新出の肉筆画。平安時代末期の保元の乱を描いた「保元物語」で活躍した源為朝が弓矢で岩を打ち砕く場面である。曲亭馬琴(きょくてい ばきん1767―1848)が源為朝をモデルに『椿説弓張月』を書き、その挿絵は葛飾北斎が担当しベストセラーとなったといわれ、本作はその挿絵を参考にしていると考えられる。

「4章 親しまれる鬼」暮らしの中での身近な鬼とともに、ユーモラスな鬼の姿を集め、北斎の軽妙な筆が捉えた愛すべき鬼たちを紹介。

葛飾北斎『北斎略画手ほどき』すみだ北斎美術館蔵(通期)

『北斎略画手ほどき』は稀覯書となっていた北斎の絵手本『己痴羣夢多字画尽』を大正時代に模刻、色刷りされた再版本。本ページでは、絵描き歌に詠み込んだ文字を組み合わせて、大津絵の「鬼の寒念仏」の描き方が説明されている。単純な運筆で表された鬼の表情は不満げで、親しみやすさも感じさせる。

展覧会名 : 特別展「北斎 百鬼見参」
会期 : 2022年6月21日(火)~8月28日(日)※前後期で一部展示替えを予定
前期 6月21日(火)~7月24日(日)、
後期 7月26日(火)~8月28日(日)
休館日 : 毎週月曜日 ※開館:7月18日(月・祝)、休館:7月19日(火)
開館時間 : 9:30~17:30(入館は17:00まで)
主催 : 墨田区・すみだ北斎美術館
お問い合わせ: 03-6658-8936(9:30~17:30 ※休館日を除く)
公式サイト : https://hokusai-museum.jp/HyakkiKenzan/

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