芸術の秋、新国立劇場は、10月にシーズンの幕を開けた。プログラムは、プッチーニ作曲のオペラ『ラ・ボエーム』とプロコフィエフ作曲のバレエ『シンデレラ』。オペラの初日の10月1日は、令和7年度〈第80回〉文化庁芸術祭オープニング公演として、秋篠宮皇嗣同妃両殿下が御臨席。都倉俊一文化庁長官の挨拶に続いて、オペラの幕が上がった。


人気の粟國演出『ラ・ボエーム』
粟國淳演出の舞台は、2003年に初演されて以来、何度も再演されてきた定番で、19世紀のパリを舞台にした若き芸術家たちの生活を生き生きと描き出す。イタリアの名匠パオロ・オルミの指揮のもと、ミミのマリーナ・コスタ=ジャクソン、ロドルフォのルチアーノ・ガンチ、マルチェッロのマッシモ・カヴァレッティ、ムゼッタの伊藤晴らが熱唱を聴かせた。



ロンドン公演後の輝かしき成果『シンデレラ』
新国立劇場バレエ団は、7月にロンドンのロイヤルオペラハウスで、吉田都舞踊芸術監督が自ら演出した『ジゼル』を上演し、大きな反響を得た。折しも『シンデレラ』の公演期間中にNHK BSで、ロンドン公演の模様が放映されたのはグッドタイミング。この海外公演がバレエ団にとってどれほど大きなステップアップをもたらしたかがしみじみ実感される映像だった。『シンデレラ』は、まさに凱旋公演にふさわしく、絢爛豪華な舞台が、連日劇場を沸かせた。

通算100回記念公演を飾った小野×井澤
『シンデレラ』は英国の巨匠アシュトンによる名版で、1999年12月にレパートリーに入って以来、上演を重ね、今回10月22日にちょうど通算100回を迎えた。記念すべき公演を飾った主役カップルは、小野絢子と井澤駿。全幕は初顔合わせということだが、第2幕の舞踏会での出会いが新鮮で、愛を深めていく過程をじっくりと見せていくのはさすが。王道を極めたパ・ド・ドゥに見応えがあった。小野は、第1幕で侘しい身なりをしていても、愛らしく、プリンセス度も抜群。舞踏会に到着して、階段を一歩一歩降りてくる場面は、最大の見せ場の一つだが、キラキラと宝石がこぼれ落ちるような輝きを放ち、感動を誘う。
ロンドン公演の『ジゼル』の放映では、米沢唯と井澤駿の演技の進化に目を見張ったが、井澤が、『シンデレラ』で一段と表現力を深め、真摯なパートナーぶりを見せてくれたのがまず嬉しかった。


初日を務めた米沢×ゲストのムンタギロフ
米沢は、初日に渡邊峻郁と共演し、開幕を飾った後、後半の2公演を英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、ワディム・ムンタギロフと組んだが、こちらのペアも異次元のレベルで、主役の波及効果なのか、全体に「英国ロイヤル・バレエ」の舞台を見ているような、煌びやかで卓越した成果を上げた。米沢のシンデレラは、薄幸の少女が幸せを掴むまでの過程を実に自然に演じて、どんな技巧も流れるようにスムーズにこなす点に新鮮な驚きがある。ムンタギロフは、ロイヤル・バレエにとどまらず、世界屈指のダンスール・ノーブルとしての力量を遺憾なく発揮、一挙手一投足に美があり、存在そのものが芸術品。シンデレラと王子のパ・ド・ドゥは、美が結晶した至福の時であった。


好調の波に乗る、池田×水井ペア
もう1組、池田理沙子と水井駿介は、ファースト・ソリスト同士のペア。既にシンデレラ役を演じている池田は、踊りが洗練され、好調の波に乗っていて、水井は、高い跳躍に正確なポジションの着地など、模範的なテクニックを決めて爽快そのもの。


そのほかの配役については、どの日を鑑賞しても、むらがなく高水準であるところが素晴らしい。仙女は、吉田朱里と内田美聡が、プロコフィエフのピアノ曲「束の間の幻想」(ランチベリー編曲)によるソロなどで、伸びやかな踊りを披露した。


成長著しいダンサー陣に目を見張る
四季の精は、ベテラン組(五月女遥、飯野萌子、奥田花純、根岸祐衣)と若手組(東真帆、山本涼杏、赤井綾乃、吉田朱里)が、それぞれアシュトン独特のひねりのきいた振付を果敢にこなし、第1幕の最大の見所を築いた。




義理の姉たちは、奥村康祐と小野寺雄、仲村啓と菊岡優舞の2組を見たが、いずれも演技に独自の工夫が見られ、姉妹の駆け引きを楽しませる。とりわけ傑出していたのは、奥村の強烈な役作りで、辺りを払う演技には目が釘付けに。
舞踏会では、道化(上中祐樹、木下嘉人、山田悠貴)が大活躍。4人の王子の友人(李明賢、中島瑞生、長谷川諒太、渡邊拓朗)は、バレエ団きっての若手ノーブルを揃え、まばゆかったこと。この中から近い将来、王子が生まれるだろうと期待を抱かせた。

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鑑賞日の指揮は、いずれもマルク・ルロワ=カラタユード(交替は冨田実里)、管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団で、絢爛とした響きでホールを満たした。なお、東京フィルは、バレエ公演が終了すると、直ちにヨーロッパ・ツァーに飛び立つなど、内外で大活躍。
※『ラ・ボエーム』10月1日〜11日、『シンデレラ』10月17日〜26日 新国立劇場オペラパレス

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