オーストラリア・バレエ団が、5月に15年ぶりに来日、ルドルフ・ヌレエフ演出・振付の『ドン・キホーテ』全幕を上演した。とにかく底抜けに明るく躍動感あふれる舞台。ヌレエフ版は、今から38年前の1987年にカンパニーが来日した際、主演に森下洋子とフェルナンド・ブフォネスを迎えて上演されているが、今回紹介されたのは、1973年にヌレエフの主演で映画化されたあの重厚な制作を2023年にリニューアルしたもの。デヴィッド・ホールバーグ芸術監督(21年就任)率いるバレエ団が一丸となって、バレエ芸術の粋を十二分に伝えてくれた。細部に至るまで装飾に凝った舞台装置や煌びやかな衣裳は、さすが映画版に準じて豪華で圧倒された。
伝説のスター、ギエムも来日、記者会見&リハーサルに登場!




photos by Shoko Matsuhashi
ゲストコーチに伝説の大スター、シルヴィ・ギエムが招かれ、記者会見や公開リハーサル、プレトーク(31日ソワレ)を通して、健在ぶりを見せてくれたのも嬉しかった。
ギエムは、2023年のリニューアル時からコーチに招聘されているが、その理由について、ホールバーグは、プレトークで、こう明かす。
「私自身、ヌレエフに会ったことがないので、一緒に仕事をしたシルヴィに指導してほしかった。彼女は、唯一無二のキャリアの持ち主で、独立していて、聡明な人だから、そのスタイルをダンサーたちに教えてもらうことが夢だった」
一方、ギエムは、「デヴィッドから打診された時、田舎暮らしで、ロバや犬と暮らしていました。オファーがシンプルだったのでイエスと答えました」と快諾した理由をこれまたシンプルに語った。




他のバレエ団にない、エネルギッシュな舞台で興奮の渦へ
オーストラリア・バレエ団の舞台には、他のバレエ団にない破格のエネルギーが満ち溢れていて、そのパワーがヌレエフの『ドン・キホーテ』を一層輝かせている。ダンサーたちは、必ずしも体型が揃っているわけではなく、むしろ不揃いと言っていい。だが、それぞれ違う個性が舞台では、強力な武器となって炸裂することを教えてくれた。
舞台は、プロローグ:ドン・キホーテの書斎から始まる。ドン・キホーテ(ジョセフ・ロマンスヴィッチ)が妄想の世界に入っていく様子がきめ細かく描かれ、サンチョ・パンサ(ティモシー・コールマン)との丁々発止のやり取りは演劇の一コマを見るようで、スタートからワクワクさせられる。
ヌレエフ版は、舞台が静止することなく、常に動いている印象。各幕の最後まで踊りの輪が続くので、いつまでも興奮が冷めない。指揮のジョナサン・ローは、極めて牽引力の強い指揮ぶりで、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を統率。疾走感ある演奏がなんとも爽快で、公演の成功の大半は、彼のリードによるところが大きいだろう。


近藤亜香をはじめ、日本ゆかりのダンサーも活躍
主役のキトリとバジルは、近藤亜香&チェンウ・グオ、山田悠未&ブレット・シノウェス、ジル・オオガイ(大谷)&マーカス・モレリの3組で、キトリは全員日本にゆかりがあるダンサーというのも、画期的なことだった。
初日を務めた近藤&グオは、経験豊かなプリンシパルで、実生活でもカップルだけあって、息がぴったり。第1幕の恋の鞘当てのシーンも、音楽に乗って気持ち良いテンポで進む。近藤は、キビキビした踊りで、キトリの勝気だが愛すべき性格を伝え、グオは、ヌレエフを彷彿とさせるボブヘアで、第1幕から、技巧をちりばめたヴァリエーションを爽快にこなしただけでなく、片手リフトも盤石で、パートナーの美質を際立たせた。

当夜は、第2幕森の場面で、近藤亜香、根本里菜(ドリアードの女王)、山田悠未(キューピッド)の3人が並んだのも特筆される。
ガマーシュのジャリッド・マデンは、新国立劇場バレエ団の『不思議の国のアリス』にマッド・ハッター役で客演した人。コミカルな役作りはさすがで、ドン・キホーテとの決闘シーンに至るまで、一秒たりとも飽きさせない。


もう1組、新進プリンシパル・カップルのオオガイ&モレリは、たとえれば、眩い太陽の光。初日ペアとは、また一味違ったダイナミックな踊りで、個性を打ち出した。こちらも会話が聞こえてきそうなほど芝居が達者で、演劇色の濃いヌレエフ版の真価を十二分に伝えた。
両日とも、街の踊り子(ロビン・ヘンドリックス、イゾベル・ダッシュウッド)からエスパーダ(マキシム・ゼニン、ダヴィ・ラモス)、ロマの首領(キャメロン・ホームズ、イチュアン・ワン)までソリスト陣が粒揃いで、難度の高いヌレエフ版をここまでハイレベルで演じたことに感嘆。バレエ団の層の厚さを感じさせた。(5月30日、31日夜 東京文化会館)

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