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映画『ボレロ 永遠の旋律』~華やかなパリとラヴェルの苦悩。傑作誕生の秘密に迫る!

カルチャー|2024.8.7
文・加納雪乃(パリ在住ライター)

世界中で15分おきに演奏されている「ボレロ」

 スネアドラムの小気味よいリズムに乗って、フルートが奏でるメロディ。クラリネット、次いでファゴットが同じメロディを引き継ぐ。一つ、また一つと楽器が加わり、スネアドラムの通奏低音をベースに、たった二つのメロディを止むことのないクレッシェンドで表現し、やがて全てが融合。興奮が最高潮に達した瞬間に、全ては崩壊して無に。17分の果て、高揚感のみが聴く者の感情に濃く残る。
 世界中で15分おきに演奏されているという、モーリス・ラヴェル作「ボレロ」。どこかプリミティフで人間の本能に直接訴えてくるようなメロディは、クラシックの世界を超えてジャズやボサノヴァ、アフリカンミュージックなど、様々な音楽スタイルにアレンジされ、多くの人々に愛されている。フランスを代表する作曲家が、創作の晩年である1928年に世に送り出した名作。その誕生にはどんな物語があったのか……。

イダ・ルビンシュタインがパリ・オペラ座で初演

 人間性の繊細さを映し出す名手アンヌ・フォンテーヌ監督がイメージし、気鋭の俳優ラファエル・ペルソナが具象化したモーリス・ラヴェルは、実に繊細だ。「ボレロ」におけるスネアドラムの如く、ラヴェルの人生に通奏低音の如く漂う様々な苦しみや葛藤、不安が、病的な危うさを滲ませたペルソナの表情――とりわけ視線に、見事なニュアンスで表現され、観る者の胸を打つ。こんな表情をされたら、誰であれ思わず手を差し伸べ抱きしめたくなるだろう。

ラヴェルの生涯に寄り添った女性たち

 実際、ラヴェルの生涯には、彼の才能を心から信じて支えた最愛の母、生涯のミューズであった社交界の花形ミシア、「ピアノ協奏曲」を献呈されたマルグリット・ロン、ラヴェルにバレエ曲を依頼して「ボレロ」の誕生のきっかけを作ったダンサー、イダ・ルビンシュタイン、さらに、作曲家の日々の暮らしに付き添いこの名曲の誕生に立ち会うことになった家政婦マダム・ルヴロー、といった5人の女性たちが寄り添っていたのだ。映画では、彼女たちのラヴェルに対する、優しく慈しみ深い、時には厳しい愛情が、饒舌すぎないセリフときめ細やかな演技で秀逸に描き出されている。

ラヴェルの実家で撮影された美しい映像

 5度も挑戦するも獲得できなかった"ローマ賞"、第一次世界大戦の辛い記憶、届きそうで届かなかったミシアへの想い、そして、創作意欲が枯れたのち、苦悩の果てに力を振り絞り生み出した「ボレロ」……。20世紀初頭、プルーストやディアギレフ、ストラヴィンスキーが社交界を輝かせ、ラヴェル自身も主人公の一人であった華やかなパリ。その輝きとラヴェルの苦悩や不安のコントラストの描かれ方も巧妙だ。今は「ラヴェル美術館」となっている、1921年から37年まで作曲家が住んだモンフォール・ラモーリーの家で撮影されたシーンは、ラヴェルの魂がペルソナに乗り移ったかのよう。我々を「ボレロ」誕生の空間に誘ってくれ、ここからラヴェルが病院へと向かうシーンには胸が詰まる。

パリ・オペラ座元エトワールのアリュが舞う!

 「ラ・ヴァルス」、「マ・メール・ロワ」、「夜のガスパール」、「ピアノ協奏曲」、そして「ボレロ」。ラヴェルの旋律が随所にちりばめられた音楽映画であると同時に、人間の精神の繊細さを美しく描き出したヒューマンドラマ。アレクサンドル・タローによるピアノ演奏、「パリ・オペラ座バレエ」元エトワール、フランソワ・アリュによるラストシーンの「ボレロ」の舞も、聴きどころ・見どころだ。

[Information]

『ボレロ 永遠の旋律』
8月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

監督:アンヌ・フォンテーヌ

出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズ

BOLERO/121分/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松岡葉子

配給:ギャガ

公式HP:詳細はこちら

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